いつかのあの日の、｜リアクション

いつかのあの日の、

　寝子島神社境内に散在する杜から夕暮れの空へ向け、鈴音にも似た蜩の声が響いて昇る。
「焼き鳥美味しいのだ」
　境内に設置されたベンチに肩を並べて座り、八神修と後木真央は少しだけ冷めた焼き鳥を楽しむ。
「修ちゃんどれが好きなのだ？」
　膝に焼き鳥の包みを広げ、真央は次々と焼き鳥を平らげる。
「純鶏やササミ、砂肝とかかな。ササミは梅紫蘇風味が好きだ」
「真央ちゃんはタレのレバーとモツが好きなのだ」
　でも何でも好きなのだ、と真央は空に重なる梢から降る夕風を仰いで笑う。夕暮れの神社の木陰で夕風を浴びて食べる焼き鳥は、いつにもまして旨い。
「夏ももうすぐ終わりだな」
　夕空から降りしきるように聞こえる蜩の声に、修は呟く。境内で遊ぶのに飽きたマーブルが足元で鳴くのに、胡瓜の欠片とササミのタレの掛かっていない内側部分を裂いて分けてやる。
「夏休み、どうだったのだ？」
「俺は本土の予備校でガッツリと夏期講習。ああ、海外旅行にも行ったよ」
　凄く有意義だった顔をする修の隣、真央は頭を抱えて呻く。
「宿題……」
「片付いてないのか」
「……武士は喰わねど高楊枝なのだっ」
　食べ尽くした焼き鳥の串を掲げて空を仰ぐ真央に、修は自分の分の焼き鳥の串を一本差し出す。
「焼き鳥一本あげるから頑張れ」
　友人からのエールと焼き鳥を有り難く受け取り、真央はとりあえず焼き鳥にかじりつく。
　その横顔を暫く眺めて後、修は一番星を探して夕空を仰ぐ。

　夏が、暮れてゆく。

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あとがき

担当マスター：阿瀬春
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お待たせいたしました。
『やきとり　ハナ』でのひととき、お届けにあがりました。

切ない思いも、楽しい思いも。出来るだけお聞かせ頂いた通りに書いたつもりではおりますが、いかがでしたでしょうか。
少しでもお楽しみ頂けましたら幸いです。

ハナでのみなさまのお話を書かせて頂いておりますと、何だかやっぱりお酒飲みたくなるのでした。
そういうわけで、今日もちょっと飲んじゃいましょう。
何なら梅ジュースも。

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