ウォータースライディングそうめん＋＋｜リアクション

ウォータースライディングそうめん＋＋

◯お祭りわっしょい！

　流れるそうめんにそのまま突っ込んでしまいたいなんて思ってしまうくらい、六月一日宮檸檬はお腹が空いていた。ひと汗もふた汗も流したのだから仕方もないが。分けてもらった色付きのカップと割り箸を持って、いただきますと飛び込もうとした瞬間。
「いいこと思いついたぜ！」
　と隣で同じく飛び込もうとしていた霧生穂月に待ったをかける。
「……なんだよ、檸檬兄ちゃん？」
　ちょっと不満そうに穂月は檸檬を見上げている。だが、きっとこの案を聞けばすぐに元気になるだろう。
「どうせならどっちが多くそうめん取れるか勝負しようぜ、穂月！」
「えっ！？　勝負！？」
　嬉しくなるくらい大げさに穂月が驚いたため、ますますこの案はイイモノな気がしてきた。
「ああ。あ、でも負けても罰ゲームはなしなっ」
　そして満面の笑みで檸檬は言い切る。それに対する返答は――
「……仕方ないなぁ、でも絶対負けないからね」
　予想通りイエスだった。
（せっかくだし、他に勝負に巻き込めそうなやつは……）
「その勝負、真央ちゃんも乗ったのだ！」
　檸檬が声をかけるより早く食ッキングを目指す後木真央が挙手をする。
「お。面白そうじゃねーか！　菜々緒！　月居！　せっかくだし、参加しようぜ」
「異論はないわ」
　そこへさらに加わったのはきゃっきゃとはしゃぐ吉祥寺黒子と芽森菜々緒。楽しむことが第一だが、気合も十分だ。
「……俺は、まぁ……応援するよ」
　残る月居歩はどうやらふたりを見守ることにするらしい。
「なるほど『ながしそうめん』というものは競争をするものなのですね！　それでは私も頑張りますっ！」
「こんなにたくさんありますからね！　皆さんで手分けして美味しくいただきましょう！」
　ちょっと趣旨がズレている気がするが、久良木優菜と宮祀智瑜もどうやら参加するらしい。
「そうめんとはいえ、喉に詰まらせないように気をつけるんだぞ！」
　そう言ったのは同学年の八神修。注意喚起をしながら、「記事になるかな、これ」と言ってデジタルカメラとビデオカメラのふたつを準備し始めるあたりが彼らしいなと檸檬は苦笑する。それからその後ろの人は――
（えっと誰だっけ……？）
　見覚えはあるが、どうにも思い出せそうにない。
「あ、じゃあおれも」
　そして御剣刀はそう言っている間にもそうめんをもぐもぐと頬張っていた。
「でしたら、薬味が欲しくなったときは私たちに声をかけて下さい……ね？」
「あ、はい！」
　割烹着のイケメン・深縹露草となぜか彼に付き従う結城正義はサポートをしてくれるという。
「ますます面白くなったな！」
「こ、こんなにたくさん……」
　思わぬ闖入者たちに戸惑う穂月だったが、でも俺だって！　と彼はすぐに立ち直る。
「じゃじゃん！――ザリガニ取りとか用のアミ！　これで絶対勝ってやる！」
　その上、網を取り出した。
（くっく、可愛いやつッ！）
『とか』と言う辺りがまだまだ子ども。檸檬はこみ上げる笑いをどうにかこうにか抑えこむ。
（だけど、勝負は勝負だぜ！）　
　俺だって負けてられるかと檸檬は袖と、ズボンの裾をまくり上げ、意気揚々と川に向かった。

　そうして川岸がちょっとしたお祭りムードになっていた頃、中津川笹鳴は一度星ヶ丘寮に戻っていた。
（一体ここまでの長いそうめんを、どうやって……？）
　刀が別で取り分けてくれたそうめんをいくらか食べていたときに、そんな疑問が頭の隅をよぎったから。ゆえに身支度をしてから上流を目指すことにしたのだ。
「そうめんの流れる川の先は……いったい、どうなっているのでしょうか……？」
　笹鳴は川の先について想像を巡らせる。
「誰かがきっと上の方から流している、のだと思いますが……」
　よいしょ、よいしょと一所懸命になって誰かが流しているのだと思うと、少しだけわくわくしてきた。
「あ、そうだ……」
　さっきはなんとかなったけれど、万が一落ちた時のために、着替えも用意しておこう。
　こうして笹鳴は、一足遅れて『始まり』を目指す。