ウォータースライディングそうめん＋＋｜リアクション

ウォータースライディングそうめん＋＋

◯もひとつわっしょい！

　深縹露草が準備したつゆも薬味も見る見る間に人の手に行き渡っていく。ほら、そこの、すぐそばでも。宮祀智瑜と久良木優菜が露草の用意した薬味や道具を使って、そうめんに舌鼓を打っている。
「食べながら遊んではいけないと教わりましたが……なるほど、フォンデュみたいなものなんですね」
　少し変わった発想をする優菜。彼女の発想に智瑜も驚いたのか首を傾げている。
「フォンデュ、ですか？」
「違います？　だから下品だって怒られちゃわないのかなぁと……」
「なるほど……言われれば、そうかもしれません」
　けれどすぐに智瑜は納得し、笑顔を浮かべている。気の合う友人なのだろうかと露草はふたりの姿を微笑ましく思いながら見つめていた。
「では、いただきます！」
「へぇーシンプルな食べ方ですね」
「私も、いただきます」
「わぁ、冷たくて美味しいです！」
「薬味を入れても美味しいですよ」
「本当ですね！　全然違う味わいになりました」
　どうやら用意した薬味も喜んでもらえたらしい。胸をなでおろし、露草は視線を彼女たちから川の方へと移した。そしてふと気がつく。
「ああ、しかし、ここだと川に入った人が具を取れませんね……」
　川の中へ入って食べている人たちはほとんど素のまま食べているではないか。あれはあれで楽しいだろうが、もったいないようにも思う。そこで露草は考えた。
「希望があれば河辺までなら少し運びますよー！」
　我ながらなかなかの名案だ。そう思っていると――
「それは嬉しいのだ、よろしくお願いしますなのだ！」
　思わぬところから返事が。隣であれこれと準備をしていた後木真央である。
「薬味切ったのだ箸休めに果物とかイカとか肉とかの缶詰も買ってきたのだ適宜食べてくれなのだ！」
　真央はそう叫んだかと思うと、川のようすをデジタルカメラに収める。それからあっという間にカメラを置いて、川の方へ向かい――
「真央ちゃんも、そうめんを美味しくいただくのだ！」
　と意気揚々に飛び込んだ。勢いそのままに真央は脅威の箸さばきでそうめんを掴み、つるりと吸引。
「……オー、マイガー」
　これぞ神業。一瞬素に戻って~~インチキ臭い~~褒め文句を呟いてから、露草もようやくひと息。自分のために色付きの紙コップにつゆを注ぐ。
「さて、私も少しいただきましょう」
　岸に座り込んでそうめんを待つこと少々。きら、きら、と光を弾いてそうめんが流れ来た。
「今デース！」
　その言葉よりも早く露草はそうめんを掴みとり、見事、紙コップの中へ。
「……う～ん、絶品デースね！」
　最初はもっともシンプルに麺つゆのみで。今度はどの薬味で食べようか。露草はわくわくしながら次のそうめんの到来を待つ。

「え、えっと、薬味です。よかったら……」
「ああ、ありがとう」
　いつの間にか水着に着替えていた結城正義は多種多様な薬味といつの間にか僕は水着着用、三種類のつゆ（麺つゆ、ごまだれ、トマトだれ）を持って、八神修の元までやってきた。
　修は少し思案してから、その中から煎り胡麻を選びつゆに加える。
「胡麻もなかなか悪くないですね」
「そうだね。この錦糸卵も、ちょうどいい具合だよ」
　黒崎俊介も頷き、和やかかつ優雅な調子で食事が進んでいた。
「奇数組へのエアコンの導入については進んでいますか？　進めてると話に聞いたものですから」
「いや、さすがキミは耳が早いね、」
　教頭は夏にいい涼し気な表情を浮かべ、けれど困ったように眉をハの字にして言う。
「でもそれは早とちりというものだよ。予算がなくて当面は難しいという結論が出たんだよ」
　それも、そうだろう。もともと予算の関係で半分のクラスのみに設置という話だったのだから。けれどそれで引き下がることが出来ないから、今ここに修がいるのである。
「しかし一部の教室にだけエアコンがあるという不平等環境は早期に是正するべきものかと――」
　あくまでも優雅に、あくまでも静かに、修は交渉を続ける。