ウォータースライディングそうめん＋＋｜リアクション

ウォータースライディングそうめん＋＋

◯薬味もわっしょい！

　無事、芽森菜々緒と月居歩と合流した吉祥寺黒子は右手に箸、左手に椀を構え、いざゆかん。と川の中へ。
「楽しく食べるぜ！……っと麺つゆも薬味のネギとカラシも準備してあるから、好きに使ってくれよ！」
　そうめんには大きく分けてカラシ派、わさび派、生姜派といるらしいが断然黒子はカラシ派だった。たとえ味がわからなくとも、ツーンよりもピリリの方が、なんとなく好きというだけなのだけれど。
「ほら菜々緒も月居も！　一緒にそうめん食べるぜ！」
　濡れてもいいように。そう菜々緒に連絡しただけあって、黒子の格好も『濡れてもいい格好』だった。黒のパーカーにホットパンツというラフな格好ゆえ、濡れることも気にせずに川に身体を乗り出す。案の定パーカーは濡れそぼち、黒子の肢体をくっきりと浮かび上がらせるのだった。
「そうね。せっかくだものね」
　そう言う菜々緒は――まさかの寝子島高校指定のジャージの上着＋スクール水着という姿である。
（さすがに驚いたけど……）
　残念だったのは、最初にその姿を見た月居がどんな反応をしたのかがわからないということ。
（……今は、なんか渋い顔してるけどな）
　月居は、どうやら川を流れるそうめんを食べることに抵抗があるらしい。それとも、ふたりのあられもない姿に緊張しているのだろうか。
（ま、月居に限ってそんなことはねーよな？）
　なんにしても棒立ちになっているのはもったいない。そう思ったのは菜々緒も同じらしい。
「歩君は食べないの？」
　ジャージがしっとりと濡れて、その下のスクール水着が透けて――相変わらず良い身体してるなぁ。
「……いや、貰う」
　歩もそんな菜々緒には勝てなかったのか、そもそも勧められれば食べるつもりだったのか、椀を受け取りそうめんをすすった。
「いやー、やっぱり気心知れた奴らと食べるそうめんは格別に美味しいな」
　ずるずるとすすり上げると、清涼感が喉を下っていく。
「あら？　クロって……」
「ああ、味覚か？　わかんねーよ。でもいいんだよ！　こういうのは雰囲気で美味しいって分かる！」
　こういう美味しい思いが出来るなんてやっぱり――
「『俺は幸運だ』な！」
　ぺろっと舌を出して、黒子は笑う。

　目の前ではしゃぐ黒子と菜々緒を見ていると、それだけで歩は『おなかがいっぱい』だ。そもそも川の水がいくら綺麗だと言われても、そこに流れてるそうめんを食べるのは勇気がいる。だからと言って勧められたものをわざわざ断るほど嫌というわけではなかったのだけれど。
　よく冷えたそうめんをすすりながら、チラリと菜々緒を覗き見る。
（――セブン関係でいろいろと……本当にいろいろとあったが。少なくとも、菜々緒周りのゴタゴタは解決したんだろ？）
　そう問いかけたいのに、問いかけて安堵したいのに、どうしても歩はそのひと言を口にすることが出来なかった。
「歩君？」
　いつの間にか変わった呼び名。昔は月居君と呼ばれていたのだが、いつからだ。――考えるまでもなかった。今の彼女にはなるべくだが、いろいろと楽しい事を体験させてやりたい。ただそれだけを心の底から歩は願っていた。
「……なんて、偉そうだが」
　なんでそんな事考えてるのか、自分にも分からなかった。甘いなにかなのか。それとも、もしかすると。どれほど考えても、やはり答えは出そうにない。