ウォータースライディングそうめん＋＋｜リアクション

ウォータースライディングそうめん＋＋

◯スクープだわっしょい！

　全速力で自転車を漕いでしばらく、川の色が変わったことに気がついた。そして気がついてすぐに、椿美咲紀は海と川が交わる場所に到着する。
　さて。荒くなった息を整えてから、美咲紀は双眼鏡を取り出し、河口を余すことなく観察する。そこには、眩しいほどに白いそうめんの姿はなく、どこへ行ったのかを確認するために今しがた上流から流れてきたものに視線で追うと――そのそうめんは、海に達した時点で蒸発したかのように消えてしまった。
「しかし消えてなくなるとな。ミステリーですねぇ！」
　驚きよりも勝るは歓喜。美咲紀はすぐに双眼鏡をカメラに持ち替えて、シャッターを切った。
「きっと『また神魂か』という事だとは思うのですがっ」
　それでもそれでも、面白いには変わりない！　スクープには変わりない！
　そうして満足が行くまで写真を撮ると、今度は川でそうめんが流れている理由の方に意識が向かう。
（と言う事は「川で流れる」事に意味を見出しているのでしょうか？）
　この疑問こそがスクープを生み出す。ということで、美咲紀は再び自転車に跨がり、そうめんの始まりを目指した。上りは下りよりもずっと辛く……美咲紀の長く苦しい戦いが始まる。その戦いに勝つために、美咲紀は思い巡らせる。
「ＤＩＳＨ村（自分の食べ物は自分で作るという自給自足をテーマにしたテレビ番組の企画）をこなす某イケメン農業アイドル……が放り込んでいるわけではないにしても……！」
　カッコイイお兄さん達が「世界一ウマいそうめんを作って流すぜ」とか言いながら流しているかもしれない！
　そんな妄想の翼が羽ばたく椿。
「自然発生はホントなのか。現れる瞬間を動画に記録なのですよ!」
　羽ばたく妄想に負けじと自転車を漕ぐ椿。
（でも……実際は誰か投げてるよね？）
　そんなことを思ったら――なんと！　

　寝子サンマが川を流れてきた。その姿は泳いでいるというよりは、どう好意的に見ても流されている。絶対、溺れている。
「誰かに投げられた！？」

　とりあえず自転車を降りて、その姿を激写。

　そして、サンマさんは姿を消した。
（……さ、急がないと日が暮れてしまいます！）
　そして、椿は自転車に跨った。
　今度は余計なことを考えず、まっすぐに目的地を目指す。途中、お祭り騒ぎをしている集団も居たけれど、そこに混じって楽しみたいところだったけれど、それも我慢して一所懸命に自転車を漕いだ。漕いだ。ひたすら漕いだ。

　その頃、中津川笹鳴はいくらか川を登ったところで休憩をしていた。
「短い距離ですけど……かなり、道が険しいです、ね……」
　息は弾んでいるというよりは、萎れて震えているような、そんな弱々しいものになってしまう。身体を動かすことが苦手で、その上、視力に不安を抱える笹鳴にとっては、ことさらにその道は危険に満ちていた。
「少しだけ、休憩、しましょう……」
　笹鳴は形の良い岩に腰掛け、そうめんをすくい上げようとした。
「ってあれ、なかなか掴めません……！」
　笹鳴はけして箸の使い方が下手というわけではないはずなのだけれど、その二本の、狭い隙間を抜けてそうめんたちは流れていってしまう。
「あと……ちょ……っと……！」
　そうして身を乗り出すのは、危ない、わかっていたはずなのに。わかっていたはずなのに。
　そのまま転んで川の中へ落ちてしまった。
「え？　って、なん、で」
　落ちただけならまだしも、笹鳴にそうめんが絡みついて――
（力が、抜けていく！？）
「た、たすけ、」
　笹鳴は流されてしまった。