ウォータースライディングそうめん＋＋｜リアクション

ウォータースライディングそうめん＋＋

◯流れるよわっしょい！
　
　まだまだ人は流れていく！
「勝負だからな、俺だって――」
　そう威勢よくそうめんに飛びかかる吉祥寺黒子が、次の瞬間。
「流・さ・れ・る！」
　逆にそうめんの返り討ちにあったのだ。
「ぎゃー！？　なんでだー！？」
　体力に自信なんてミジンコほどもない黒子はあっという間に流される。
「クロ！」
　慌てて芽森菜々緒が、川の中に入りどうにか黒子の手を掴むが、何故か彼女まで流されてしまった。
「菜々緒ッ」
　おそろしく運動神経のいいはずの菜々緒まで流されるなんて、なにかあるに違いない。そんなこと考えればすぐにわかる道理だが、月居歩は考えるよりも早く飛び込んでいたのだ。
　こうして三人仲良く流される。
　その少し下流。
「んー……もう少しで、届きそうです……！」
　どこかで聞いたような台詞を言っているのは智瑜。
「あ、アブな――」
「へ？」
　その声に驚いた智瑜の身体はぐらりと傾いて、そのまま川へダイブしてしまった。
「きゃーっ！」
　どうにかつゆを死守するあたりは流石、智瑜というところ。けれど自分が流されては元も子もないような……。
「大丈夫か？」
　御剣刀が慌てて飛んでくるが、
「意外とアトラクションみたいで楽しいです」
　と智瑜は笑顔で返し、とにかくあの三人を助けてあげて欲しいとだけ伝えるのだった。

　というわけで、刀は大忙し。迷う暇なく『加速』を使い、流されていった人たちの元へと走る。何故、川の中へ入らないのか？　それは――いくらか前のことだ。
「へッ！？」
　そうめんが身体に触れた刹那、全身の力が抜けてしまったのだ。
「ぶはっ、冷てー」
　そうめんが離れるとすぐに力が戻ったため、慌てて体勢を立て直す。器も箸もちゃんと持っている、流石は俺。と自画自賛もする余裕もあった。だけれど、そこで『そうめんが力を奪うもの』ということを知ったのである。
　だからこそ、刀は走った。そしてフツウの人間の感覚で、一瞬のうちに、流された人々は助けられたのである。

　だがしかし。
　まだ終わりではない。
　流れていくだけではなく、人が流れてきたのだ。そう。そうめんの群れの中に紛れて、中津川笹鳴が流れてきたのだ。
「キャー！？　ひ、人が流れてきました！？」
　その悲鳴を聞いて、一斉に笹鳴に視線が集まった。
「こ、これも食べるんですか！？」
「いや、食べたら駄目ですよ！？」
　そのやり取りとほぼ同時に、加速した刀が笹鳴を助けて岸に上がる。
「……食べないんですね、安心しました」
　頼むから食べないでくれ。
　そんな心のツッコミを全員でしたところで、優菜は笹鳴の側へちょこちょこちょこと駆け寄った。
「あ、あの濡れてしまって……大丈夫ですか？」
「あの……こうなるかもと思って、着替えを……」
　そう言って笹鳴が取り出したのは、水分を吸って重くなった着替えたち。
「あ……」
　笹鳴の顔が絶望の色で染まる。
「風邪を引いてしまっては一大事です。うちの車にお洋服が何着かあるので、それを使ってください。全部私が選んだフリフリの可愛いお洋服ですよ！」
　優菜はそんな笹鳴をずるずると引きずって、執事の待つ高級車の中へと消えていった。

「……ああ、問題ないよ。連絡ありがとう」
　八神修は電話を切り、再び交渉を始めようと、黒崎俊介と向かい合った。
「電話は誰からだったのかな？」
「椿美咲紀からでした。流れていく中津川を心配して連絡してきたようです」
「なるほどね。……それにしてもずいぶんと流されたみたいだね。念のために病院に付き添うことにするよ」
　そう言って、俊介は交渉の場から離れていく。だが、これはどうしようもないことだった。修は次の機会を待つこととなった。