学校で満喫するサマーバケーション｜リアクション

学校で満喫するサマーバケーション

【補習授業、国語編】

　プリティヴィ・プラサードは、その美しい響きのお名前も示すとおり、インドからやってきたインド人の女の子。寝子高制服にサリーを組み合わせた独自のファッションは、本人のかわいらしさとも相まって、校内で知っている人も多いかもしれません。
　そんな彼女の、夏休みの過ごし方はと言いますと……。
「プリティヴィちゃん、大丈夫？　ついてこれてる？」
「は、はい。大丈夫」
　国語の補習を受けておりました。授業を担当するのは、プリティヴィのクラス担任でもある、美和ちゃん先生こと久保田美和先生です。
　インド人のプリティヴィですが、彼女の日本語は、なかなかに堪能と言えます。先生との受け答えに問題はありませんし、クラスの皆とだってちゃーんと話せます。何なら、そのへんの日本人と比べたって、いくらか達者なくらいだったりするのです。
　それが、何故に国語の補習など受けることになってしまったのか？　と言えば、
「そういえば、プリティヴィちゃんのテストの答案は、カッコよかったな～。ところどころ、ヒンディー語で書いてあってね、すらすら～って。調べてみたら内容は合ってたから、正解あげたかったけど……国語のテストだもんね」
「せ、先生！　そういうのは、黙ってるべき……！」
　楽しげに暴露してしまう美和先生の、仰るとおり。
　口に出しての会話には問題が無くとも、それを文字として書こうとすると、これが彼女にとっては少々、難題でありまして。頭で理解はしていても、うっかりすると、ついつい慣れ親しんだヒンディー語でペンを走らせてしまうのです。
　後から気づいて、あー！　なんて思っても、後の祭りというわけなのです。
（……はっ。美和ちゃん先生にヒンディー語を覚えてもらえば、成績が上がるのでは……？　これはぜひ、覚えてもらうべき！）
「プリティヴィちゃーん、大丈夫～？　ついてこれてる～？」
「は、はい。大丈夫」
　……そんなことは、儚い夢だと思い直し。彼女はきりりと、真面目に補習を受けるのでした。

　ところで、美和先生の授業と言ったらやっぱり、あの名物。
「そうそう。ねえ、聞いてよー！　あの男ときたらさあ……」
　授業を派手に脱線しての、生徒相手のマジ恋バナです。今日も今日とて美和ちゃん先生、派手に教壇へ突っ伏しては、嘆きの念を吐露し始めます。絶好調です。
　皆、そんな先生の大脱線には慣れっこですし、半ばこれを楽しみにしている生徒だっているほどです。気さくな先生は、いつだって生徒たちに大人気……なのは、良いとしましても。
　今日はちょっと、真面目に授業を受けたいプリティヴィ。苦手な科目が担任の先生、というのもなかなか美味しいですし、どうせ補習を受けるのなら、できるだけ知識を吸収しておきたいところです。
　そんなわけで、さ、と手を上げますと、
「あの、先生。そのお話はとても気になるけど、今は授業を……」
「ねえねえ、プリティヴィちゃん。知り合いに、良い男いない～？　インド人の大富豪とかさあ～」
　先生、身もフタも無いことを言い始めました。これは対応を誤れば、長引くこと必至です。
　話をうまーく逸らすべく、プリティヴィの発しました言葉は、
「ええと……日本人妻を欲しがってる、インド人のお金持ちなら、確か一人……」
　……どうやら少し、チョイスを誤ったようです。この後、時間ギリギリまで、らんらんと目を輝かせる美和ちゃん先生の追及は続きました。

　日本語もバッチリ、プリティヴィちゃん。
「ところで、何で答案、ヒンディー語で書いたの？」
　頭でちゃあんと分かっていても、文字で書くのは、ちょっぴり苦手。うっかり間違いもあるけれど。
「だ、だって……えっとほら。『国語』って、『母国語』って意味だと思ったから！」
　そんな苦しい言い訳は、彼女の真面目な人柄も相まって、周囲には可愛らしい外国人の女の子の、ちょっとしたチャーミングなエピソード。なんて、受け取られてしまったりもしまして。
　なかなか、上手くはいきませんけれど。寝子島は、寝子高はきっと、外国人にだってインド人にだって優しいはず。
　がんばれ、プリティヴィちゃん！

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