「いぬ」のお手伝いさん｜リアクション

「いぬ」のお手伝いさん

　　【お手伝いするよするよ!】

　早朝にも拘らず、真夏の炎天下が予測される暑い日差しが照りつける。
　椿美咲紀は、自分が好む家庭菜園の草抜きをしていたところだった。
　ふと顔を上げた先に……野菜の生えている葉の間から、一対の瞳が興味深そうに覗いている。
　「ひゃあっ」
　驚いてひっくり返ってしまう美咲紀。
　「ひとを見つけたワン！　かくかくしかじかな事情によりひとのお手伝いと相成りましたでござるワン！　ご主人様になってほしいワン！」
　葉の間から野菜を痛めないように出てきたのは１匹のボーダーコリーだった。白黒の毛皮が良いカラーアクセントになっている。
　「朝からテンション高いのね……」
　既に様々な様々な体験をしてきた美咲紀にとっては、今更いぬが喋ってもどうってことはない。
　むしろ困るのは要望内容。しばし沈黙の上、一つの結論にたどり着く。
　「お役に立ちたいのなら、私の運動不足解消に付き合って!
　一緒にお散歩して！」

　夏故の暑さによる運動不足。これだけは普段活発な美咲紀にもどうしようもなかった。
　いぬは二本足で立ち上がり、着ていた甲冑をカチャカチャ鳴らしながら待ち焦がれるように両手を動かしている。
　美咲紀が出かける準備をしても、甲冑を脱がない犬に、ふと問いかけた。
　「甲冑脱いじゃってもいいのですよ？　外はきっと酷暑なのです」
　「これは実は「ねこ」との更なる差を図る「強化すーつ」なのでござるワン。運動も訓練もこのままで行えば能力倍増！　なのでござるワンっ」
　美咲紀は、そのダイナミックな説明に、自分の知らない世界が存在しているんだなぁとしみじみと感動していた。

　星ヶ丘ホースクラブを目指し。
　着替えて、星ヶ丘に並ぶ凝ったガーデニングを眺めながら、途中にあったのお店でリードと、ドッグフードとフライングディスクを購入した。
　おまけでついて来たバンダナを首に巻いてあげれば、それはとてもよく似合っていて。
　「似合うでござるワン？」
　どきどきしながらいぬが尋ねると、
　「うん、カッコイイ！」
　素直な美咲紀の頷きにいぬは照れたように手で器用に顔を搔いた。

　美咲紀は犬とフライングディスクに並々ならぬときめきがあった。
　フライングディスクを犬が華麗にキャッチする……その姿はＴＶ等で度々放送されているが、正に憧れでもあった。
　今、まさにその実体験。
　「いいですか？　このフライングディスクをキャッチして戻ってくるですよ？」
　いぬがそれに注視している中、水平にフライングディスクを投げてみる。
　勢いが足りなかったのか、覚束ない軌道を辿るフライングディスクを、いぬは見事に追いかけキャッチした！
　「……！　すごいです……！！」
　受ける感銘、轟く感情。まるで自分が有能なトレーナーになったような気分だ。
　小走りに戻ってきた甲冑を着たボーダーコリーを感極まる様子で撫で回し、ぎゅうと抱きしめる。
　「ご主人様っ！　もう一回っ！　もう一回投げてほしいでござるワン！
　何度でも取りに行くワン！！」

　こちらも目を輝かせて、美咲紀に投げて欲しいとせがむいぬ。
　投げる都度、二本足でも四本足でも華麗にキャッチしてくる。
　事前に、甲冑が濡れても大丈夫か聞いて、ホースでお水を掛けて上げながら。

　至って平和なディスクキャッチは、いぬも美咲紀も大満足する夜までずっと続けられた。