「いぬ」のお手伝いさん｜リアクション

「いぬ」のお手伝いさん

　　　【お役に立つワン＠まったり】
　
　「『はい、隊長！』呼び方は、これで合ってるでござるワン？」
　「もっと肩筋抜いてもいいですよ。その方がこちらも安心出来ますし」
　そう言ってもらい、安心した様子で兜を脱ぐ茶色の柴犬。
　兜を脱いで更に露になるつぶらな瞳。白い麻呂眉。

　猫鳴館近くのジャンク山の前、「お宅訪問」などのアグレッシブないぬが多かった中「ここなら手伝い供給があるかも」と待機していた柴犬。
　その予想は見事的中し、ご主人様として鈴野加代に拾われる事となった。
　「了解でござるよー、隊長」
　二本足で、兜の代わりに渡された「安全第一」と書かれたヘルメットを手に取る。
　甲冑姿で若干いかついのが難だが、それを差し引けば。
　締まりは多少あるものの、それ以上にほんわかとした黒目比率が圧倒的に多い瞳の柴犬の雰囲気に、加代は自分の兄の様子をつい重ねてしまう。
　それにちょっとしたほのぼの感を覚えつつ、ヘルメットを被る前のいぬの頭を軽く撫でてあげる。
　
　「作業は、基本的にダメージの少ない基盤や使えそうなアンテナ、無傷のブラウン管テレビやオーディオ機器やレンジ。
　そういったものを回収してリヤカーに詰め込むだけです。
　リヤカーが一杯になったら猫鳴館に運んで私の部屋もしくは大部屋の隅に置いていく。
　それだけです。
　私はこの通り小柄ですし、夏場は気温や日差しの問題もあってなかなか作業しようという気になれませんでしたが、あなたがいるなら大丈夫でしょう」

　その言葉にいぬが目を輝かせる。
　「さっそく頼りにされている！」その様子が余程嬉しかったようだ。
　のんびりとながらも、嬉しそうに尻尾を振る茶色の柴犬に、加代は微笑ましいものを感じながら、早速作業を開始した。

　「重たいでござるなー、でも、拙者頑張るでござるよー」
　のんびりと、しかし着実に作業は進んでいく。
　「隊長、これらは何で使われるでござるワン？」
　「こんなふうに捨てられてはいますが、これでもまだ使える部品が結構残っているものなのです。
　なので私はそれを直して再利用しようかと。日曜大工が趣味なもので」
　「それはいいでござるワンなぁー」
　ほにゃりと顔の表情を崩して感想を告げる柴犬に、加代にはより一層の愛着が湧く。
　加代は一所懸命手伝いをしてくれるいぬに、手を休めずふと聞いてみた。

　「どうして突然お手伝いをやろうと思ったのですか？」
　「んー、『いぬ皇(いぬのう)さま』が、ねこの人間界進出を知って『これはいかん！』と、『お手伝い大作戦』をお考えになられたでござるワン。
　しかし、それがどんな考えであれ、拙者としては人間界の人と仲良くなれる良い機会でござるワンよー」
　のほほんと、人がいないかを確認しつつリヤカーを引き始めた柴犬が幸せそうに微笑んで加代に向かって笑いかける。
　加代もそれに誘われるように微笑んで。
　「食堂にご飯が残っています。それと冷たいお水も。
　……帰る前に、良かったら。少しゆっくりしていって下さいね」

　肉体労働の後のご飯は最高とばかりに、美味しさを隠しもせずに表情に表して食べながら。
　いぬはお水を飲んでほっと一息。
　「それでは、隊長ー。これで帰るでござるワン。
　今日はたいへんお世話になったでござるワン」
　二本足の柴犬が片手を上げて握手をしようとすると、加代はそのフカフカの塊に、ぎゅっとと優しくそして力強く両手を回して抱きしめた。

　「隊長に優しくしてもらえたでござるワンっ！　優しくしてもらえたでござるワン！」
　いぬは大喜びして幸せそうにはしゃぎ回る。
　「安全第一」のヘルメットから、最初に被っていた兜を自慢げに被り直して、いぬはのんびりとゆっくり手を振ってから時々きょろりと振り返りつつも後ろ髪を引かれるように去っていった。
　残った手の中に愛くるしい表情が思い起こされる。
　可愛らしい犬だった。こんな不思議な島ならば、きっともう一度、会える機会もあるかもしれない。
　──さようなら、またどこかで会う日まで。