「いぬ」のお手伝いさん｜リアクション

「いぬ」のお手伝いさん

　　【サー！　イエス、サー！】

　「なぁるほど、話は聞いた」
　『ドッグロード』から一大勢力並みに連れ出されたいぬ達は、どうやらご主人様、桜崎巴の理解に安堵のため息をついた。
　「猫に負けないようにしてやるよ！　そうなりたい奴はついて来るんだね！」
　その言葉、そしてこちらの詳細を聞いて、これでご主人様の役に立つ何かが出来る……いぬ達はそう思った。
　しかし、
　「つまりあんた達ワン公は、自らの存在価値を捨て、劣化猫に成り下がりたい、そう言うんだね？」

　いぬ達の間に予想外のどよめきが走った！　そうならない為に、こうしてお手伝いに来たと言うのに！

　「最近の学説じゃ、犬ってのは狼の近縁種どころか一亜種だって言うじゃないかい。
　つまり、あんた達は大神だ。人に畏れられ、敬われる、至高の戦士ってのがあんた達の真価じゃないのかい？」
　いぬ達はお互いを見やった。
　そのダイナミックな発言に。その大胆極まりない説論を。

　「歴史を紐解けば、人と犬の関係ってのは狩猟のパートナー。それが、あんた達はどうだい、猫の真似して人様に媚び売りやがって。ご先祖様に恥ずかしいとは思わないのかい？」
　「た、確かにそうでござる……！　我々はねこの事ばかり考えていて、肝心なことについて何も考えていなかったでござる！」
　一拍おいて、いぬの一匹が声を上げる。飼い主が見つけられなかった他のいぬ達も神をも見るかのような眼差しで目を見開いている。

　巴は一つ咳払いをして、言葉を続けた。
　「いいかい。これからあたしは、あんた達に牙を取り戻させてやる。
　仲間を集めな。口答えするんじゃないよ、返事はこうだ、『サー！　イエス、サー！』」

　「サー！　イエス、サー！」
　……こうして、内実『犬は人間に使われてなんぼ。鍛え上げて最強の私兵に計画』を企てた巴の作戦は幕を開けたのであった……

　「まずは麓から九夜山頂まで全力ダッシュ！」
　いぬ達は巴の口から出た言葉に、衝撃の余り何度も彼女を見直した。
　「そして山頂での腕立て伏せ1000回！　手を抜いたら承知しないよ！」
　いぬ達が一斉に息を呑む。
　そこに追い討ちを掛ける様に巴が告げた。
　「山頂での腕立て伏せ1000回が終わったら、今度は麓まで『直線で』向かう！
　こいつを演習だと思うんじゃないよ、遅れたら死ぬと思っておきな！」
　山の直線行動がどれだけ過酷かを知るいぬ達は、開いた口をふるふると戦慄かせながら巴を見た。
　──しかし、いぬと伝達された犬達は知っている。

　『ご先祖様に恥ずかしいとは思わないのかい？』

　それを滔々と語るその姿は、まさに「神！」そのものであった事を。
　ねこすらも相手にしないその力こそ、きっと素晴らしいものに違いない──
　既に……いぬ達は、見事なまでに洗脳されていた。され切っていた。

　「ほら、ちんたらやってんじゃないよ！　さっさと行く！！」
　その場に竹刀があれば、間違いなく振り下ろされていたであろう。
　いぬ達は幻影かと思うほどに、その存在しない竹刀の姿と振り下ろされた音をはっきりと聞きながら、いぬ達は全力で飛び出していった。