夕闇橋のその向こう｜リアクション

夕闇橋のその向こう

　息を切らせ、るるかは暗闇に立ち止まる。膝に手を置いて息を整え、ここまでくればもう安全、とぐるり見回し、
「……ってどこ～？」
　一緒に居たはずの二人の姿が無いことに気付いた。
(迷子になっちゃった！？)
　暗闇に立ち尽くして、小さな子どものように顔がくしゃくしゃになる。心臓がありえないほどどきどき鳴る。息が苦しくなる。体を支えていた膝が折れる。砂利の上にぺたんと座り込んで、その冷たさに思わずぽろり、涙が零れた。暗くて怖くて、二人の姿が見えなくて、もう立ち上がれない。
　べそかいた顔を抱えた膝に押し付け、背中を丸める。
　小さい頃に迷子になった時も、こんな風に泣いた。
(あの時はパパがむかえにきてくれたっけ)
　でも、今は。
　涙に濡れた眼を上げる。ずっと離さず握り締めていたフルートケースが暗闇に浮かび上がる。抱きつくようにフルートを取り出し、
(誰か、気付いて)
　祈りを籠めて吹き奏でる。
　淡く柔らかな音がトンネルに広がる。騒ぐ心を落ち着かせ、いつも懸命に練習している音をただ無心に鳴らしていて、
「音はこっちからだ」
「フルート！　フルートの音だよね！」
　暗闇の向こう、近づいてくる二人の声を聞いた。
「あっ！　るるかちゃん見つけた！」
「良かった」
　思いがけず近く二人の声が聞こえて、るるかはフルートから唇を離す。
「無事で良かったよ！」
「凛！　響也！」
　声を上げて両手を広げれば、二人の温かな手に触れることができた。泣き声に近い歓声を上げて、るるかは二人に飛びつく。
「さっきはあんな状況で混乱してただけなのに悪かった」
　抱きついてくるるるかの華奢な身を受け止め、響也は安堵の息を吐く。響也の胸のあたりの服を掴み、るるかは首を横に振る。
(見つけてくれた……！)
　それだけで、今は充分。
「さぁ、早く出口目指そう！」
　るるかと響也の手を引いて先頭に立ち、凛が声を弾ませる。

このページにイラストを設定する