こびとになっちゃった！～隠れ里に遺された落神伝説～｜リアクション

こびとになっちゃった！～隠れ里に遺された落神伝説～

●春の丘５

　春の丘はわいわいと和やかに、協力体制が築かれていった。
　あちこちで摘まれたタンポポを、月居歩や志波拓郎、ろっこんでスケッチブックに花を封じることのできる旅鴉月詠が運ぶ。それを信楽世平や南風、あとから加わった宇佐井かよが花冠に仕立ててゆく。

「メットル・ユヌ・ヴォレー！」
　葛城璃人が＜魔法少女（ソルシエール）☆りぃ＞でステッキを召喚すると、いまの璃人の背より大きいステッキはどおんと倒れてタンポポをなぎ倒した。
「おや。意図と違いましたが、さすがマジ狩るステッキ！」
　璃人が倒したタンポポを、歩が両手に一本ずつ抱える。
「力自慢ってわけじゃねぇが、それでも女子に重いもん運ばせるのは気が引けるしな」
　女子、のところにハテナマークが付いていたが。

「根っ子は珈琲になるのは知ってるけど……そのまま食べてもおいしいのかな……」
　拓郎もタンポポを２本抱え、世平たちの元へ運んでいた。
　と、向こうから高梨彩葉が手を振って駆けてきた。その後ろからは、やや不機嫌そうな荒海藤吾も。
「彩葉……さん……！？」
　まさかこんなところで会えるなんて！
　ドギマギと視線を彷徨わせたとき、近くに紫色のホトケノザが咲いているのを見つけた。
「あ……小さい頃、花の蜜、吸ったな……」
　無性に懐かしくなって先の開いた細長い花を摘み、やってきたふたりに渡して自分も咥える。
「こうやって……花の、付け根のところを、吸うんだ……糖分補給に……いいと思う……」
「ありがとー。おいしいねー！」
「……ああ」
　ぶっきらぼうな藤吾の様子に、拓郎は首を傾げる。
（あれ……荒海さん、機嫌悪い……？）
　藤吾と拓郎。幼馴染と彼氏。彼らが胸に秘める想いは、じつはとても近い。
　だからこそ『相手は自分の知らない彩葉を知っている』……その事実が少年たちから会話を奪う。
　彩葉だけがタンポポみたいに無邪気に笑っている。
「さ、元気も出たし頑張ろう？」

◇

　こうして。
　花冠は完成した。
　輪の中で大の字で寝れそうな大きな花冠だ。
「服を作ろうと思って持ってた布があるから、リボン代わりに飾らない……？」
　ジャンヌ・クローデルの提案でリボンが結ばれ、さらに椿美咲紀が摘んだサクラソウやレンゲ、ラグエルが摘んだアネモネなどの花々で飾りつけして、花冠はうっとりするほど素敵なものに仕上がった。
「これならボス猫も満足ッスよね！」
　労働の汗を拭い、南波太陽はいいね！　と親指を立てる。
　南風はそんな彼に握手を求めた。
「寝てるところを無理に手伝わせて悪かったわね」
「ありがとうございます」
　篁文緒も微笑む。
「うんうん、夢なのにうんと働いたッス！　じゃあ、ご褒美はデートで！」
　調子のいい太陽は案の定、文緒と風に苦笑いであしらわれてしまったけど。

　吹き抜ける風にタンポポが揺れ、綿毛がふわりと宙に飛んだ。
「それにしても……小さくなったこんな低い視界で見る風景ってのもなかなか体験出来ねぇな」
「そうだな」
　歩の独り言に、月詠が応える。
　仕事を終えた月詠は、残ったスケッチブックのページに、蝶や猫を描いていた。
　いままでと違う視点で描くことに、楽しみを覚えているようだった。
「ここは季節が入り混じっているとても不思議な世界だ。心躍るものさ。私でもね」
「わかるよ」
　歩もまた、世界を眺める。
　よく見ておこう。この光景を覚えていよう。
「元の世界に戻って、覚えていられたら、この空を、この花達を、この風景を、キャンバスに描いてみたいよ」
「それはいい。どんな世界を描くのか楽しみだよ」
　絵描きたちはこうして静かに笑い合った。

　～　Mission Completed !　～