「もお~」
寝子島某所。
カラスの姿をした神さまクローネは、搾りたてのミルクをぐい、と呑み干す。いったい幾千杯目だろう。
「あらぁ……くだらないのばかりかと思ったら、いい情報を掴んだわァ。これはひょっとして……」
よくやったとばかりに傍らにあったウシをひと撫でし、クローネは手下たちに号令した。
「あんたたち、いくわよ!」
8月、真夏の真昼間。
夏の樹々が鬱蒼と茂る九夜山山中。
クローネたちは、とうとうその古木に辿り着いた。
そして見た。
がっしり太くて、歴史を感じさせる木の根元に、黒く大きな
“うろ”がぽっかり空いているのを。
「間違いないわぁ~これよこれ! たしか、このうろが、アレのある場所への入り口のはず……」
言うが早いか、クローネは自らの羽根を一本抜き取り、古木のうろにぶすりと突き刺す。
その途端、うろはおんおん唸りをあげ、クローネを手下もろとも、ひゅうっと呑んだ。
問題はそれだけでは収まらなかったということだ。
風はうねり渦巻いて、まるで寝子島中のものをうろへ吸い込まんとするかのように吹き荒れ、そして――。
◇ ◇ ◇
――爽やかな風が頬を撫でる。さやさやと優しい葉ずれの音。若い緑と花のにおい。
「大丈夫か?」
一足先に気が付いたらしい
龍目 豪が、手を差し伸べてくれていた。
ふかふかの苔の上に横たわっていた
初島 優は、その手をとって身を起こした。
「ありがとー。えっと、ここ、どこー?」
「わからない。けど、変な世界に来ちまったのは間違いないな」
見渡せばたくさんの人がいて、みんな一様に戸惑った表情を浮かべている。
優は傍に少年が倒れているのに気づいた。見慣れない格好をしていた。日本史の教科書の最初の方に載っていそうな白い古代風の衣装を身に纏い、赤みがかった茶色の髪を両耳の脇でみずらに結っている。優が肩を叩くと瞼を幾度か擦って目を開けた。瞳も髪と同じ茶色だ。
なにやら見覚えがあるような――と思っていると。
「信じられません。龍目殿に、初島殿ですか?」
純情そうな瞳をぱちくりさせてそういったのは少年の方だった。
「俺たちを知っているのか?」
「いつぞやお世話になった
鳶色彦です。――ねずの」
ねず。いつか、
猫鳴館でネズミ騒ぎがあったときに出会った、小人族――のはずだった。しかし今目の前にいる鳶色彦は、優と同じくらいの身長だ。優はうわあ、と声をあげた。
「きみ、すごく大きくなったねー!」
「鳶色彦が大きくなったって?」
豪はかぶりを振り、ビーチボールみたいなてんとう虫を指差した。
「違う……
俺たちが、小さくなったんだ!」
ああ!
風に揺れるシロツメクサ。若草色の円い葉はまるで三枚のうちわのよう。
傘ほどもある黄色いたんぽぽ。蜜を吸いに来たモンシロチョウは、帽子で取るには大きすぎる。
すべてが巨大で、圧倒的に美しい。なんてことだろう、世界が、こんなふうに見えるなんて!
猫たちが集まってきた。突然現れたたくさんの珍客を見に来たのだろう。やさしい猫たちのようで、いつのまにか
野々 ののこがその背中に乗せて貰ってはしゃいでいる。そんな猫たちに混じって、目つきの鋭い灰色の猫がいた。
テオだ。テオはこの世界に来ても小さくならなかったらしい。
テオは、優、豪、鳶色彦の三人を背に乗せると、出来るだけ背を伸ばしてあたりを観察させた。
三人は知った。今いる場所には、まごうことなき春がある。
すこし小高くなっているから、春の丘、と呼ぶことにしよう。
植物の様子は徐々に変わっている。南の方は深緑の夏、西の方は色づく秋、北の方は枯れ木の冬だ。
――こんなことが、ありうるだろうか。
「おい。どうなってんだここは。四季の花がいっぺんに咲いてるなんて、フツウじゃねえだろ」
テオの問いに、鳶色彦は茫然と呟いた。
「ここはまさか……
ねず族に伝わる伝説の<隠れ里>では……」
「隠れ里だと?」
「ええ、あの世とこの世の狭間にある場所……猫がたくさんいる桃源郷のような場所だと伝わっています。
そこに大昔のねずが、落神が落ちた当時の記録を隠したらしい、と」
仔細を聞くと、テオは口の端を上げこういった。
「面白いじゃねーか。お前ら、やる気はあるか?」
こんにちは。ホワイトシナリオ第4話を担当させていただくことになりました、笈地 行(おいち あん)です。
大役にドキドキですが、よろしくお願いいたします。
マスコメ長いよ! って方は色のついた字を追いかけてください。
あなたの現状
気づけば、花と猫いっぱいの桃源郷のような場所『隠れ里』にいました。
隠れ里は、春・夏・秋・冬の4つのエリアに分かれていて、現在地は春の丘です。
あなたの身体はねずサイズ(身長・体重=500mlのペットボトルくらい)です。
ひとの方・ろっこんに気づいていない方は、この状況を夢だと思うことでしょう。
何をしたらいい?
■ふわふわコース(初~中級)……気楽に参加してみよう! 簡単なミッションにチャレンジしよう!
<鳶色彦曰く>
・元の世界に戻る方法を、ボス猫なら知っているかも。
・ボス猫は花が好きなようだ。
<ミッション>「ボス猫」を探し、「四つの花」を集めて捧げよう!
【A-1】隠れ里で小人ライフを楽しもう。
春・夏・秋・冬、好きなエリアで、小さくなってしまったことを楽しむ。
猫たちに乗って遊ぶ、野原で大きな花や蝶、昆虫たちと戯れる など。
<参加NPC>野々 ののこ……野原で遊んだり、猫に乗ったりして喜んでいる。
【B-1】春の丘で、蝶がたわむれる野原の黄色いタンポポを摘んでこよう。
タンポポは春の丘にいっぱい咲いている。
<参加NPC>南波 太陽……一度目覚めて、夢かと思って、また昼寝している。
【B-2】夏の泥の池で、薄紅色のハスの華を摘んでこよう。
泥の池の大きさは直径10メートルほど。無策で入ると沈む。
<参加NPC>剣崎 エレナ……夢とはいえ、この私の顔に泥を塗るなんて!!
【B-3】秋の小川で、対岸に咲く紫色のキキョウを摘んでこよう。
川の幅は1メートル足らず。水はとても澄んでいて飲めそう。
<参加NPC>海原 茂……泳ぐ気などさらさらない。
【B-4】冬の山、切り立った崖の中ほど、岩棚に咲く白い待雪草を摘んでこよう。
うっすら雪のつもる断崖絶壁。強風が吹いている。
崖の上から岩棚までは約10メートルほど。
クローネの手下が襲ってくることもあるので気を付けて。
<参加NPC>串田 美弥子……鼻がむずむずしてくしゃみしそうだ。
【B-5】どこにいるかわからないボス猫を探そう!
ボス猫は、よく太っていて、花を食べるのが好きで、「ぶにゃ~~ご」と鳴くらしい。
<参加NPC>鳶色彦……みんなと一緒にボス猫を探している。
■にょろにょろコース(上級)……洞穴を探検し、クローネやテオ、落神伝説などに絡んでみよう。
<鳶色彦曰く>
・落神時代の記録は巻物で、3つに分けられ北の洞穴に隠されている。
・巻物は3つ揃わないと意味がわからないらしい。
<テオ曰く>
・クローネの気配がする。
・落神伝説の巻物こそクローネが探しているものに違いない。クローネに先を越されるな。
あなたは、落神時代の巻物が気になる、テオを手助けしたい、ただ冒険が好き、などの理由で
洞穴探索隊の一員に加わることができます。
<ミッション>洞穴探索隊の一員になり、クローネよりも先に「落神伝説の巻物」を見つけよう!
<北の洞穴内部の情報>
・道は3つに分かれていて、それぞれの道の先に巻物があるようだ。
・洞穴の中は暗い。闇の中では、動物たちの方が圧倒的に有利。
【C-1】にょろにょろ鍾乳洞
狭い岩の隙間を抜けると、迷路のような地下水路に出る。
鍾乳石や石筍がにょろにょろと無数に生えていて幻想的。
水路は、水深15~20センチ、一番深いところで1メートルほどで、
奥へ奥へ、数百メートルほど続く。
つきあたりに泉がある。パッと見、道らしい道は見当たらない。
水はどこかに流れているようだ。
石筍の影から、蝙蝠が襲いかかってくることもあるので注意が必要。
【C-2】にょろにょろミミズ溜まりの穴
土の地面に、直径は12~3センチ、真下に数メートルの深さの穴がある。
底付近はミミズ溜まりになっていて、
無数の立派なミミズが穴の底いっぱいにうじゃうじゃ詰まっている。
巻物を手に入れるには、ミミズの中を抜けるか、ミミズを何とかしないといけないようだ。
ミミズに触っても害はない。危害を加えようという意志もない。彼らはただそこにいる。
【C-3】にょろにょろ蛇の道
普通の人間でも立ってあるけそうな平坦な道。
その奥には、洞穴に紛れ込んできた動物を喰らって生きる、
2メートルはあろうかという巨大な蛇がいる。
暗闇の中で目は退化し盲目ですが、気配には敏感で、獲物を狙うときは素早い。
牙には毒があり、噛まれると身体が麻痺することだろう。
巻物はこの蛇の先にある。
<参加NPC>テオ……この道を進む一行に同行するが、蛇退治に参加する気はない。
【C-4】その他
自由な発想でどうぞ。
巻物に絡むアクション、クローネやテオ、落神伝説などに絡むアクション、など
賭けに出たい方向け。
<参加NPC>クローネ……現在地は不明。まだ洞穴には来ていない。
<参加NPC>テオ……ツンデレではない。たぶん。
アクションの書き方
アクションには下記の内容をお書きください。
1)行動選択肢。【A-1】~【C-4】から、どれか1つ。
2)キャラクターの行動を1つに絞って簡潔に。キャラのセリフが1~2個あるとグッド!
○ろっこん
・隠れ里は非日常のため、基本的にひとがいるいないに関わらず発動する。
・サイズを変える能力や効果範囲がある能力をはじめ、基本的に、
ろっこんの力は、縮小した自分のサイズに比例して小さく弱くなる。
・【特別ルール】ろっこんの能力タイプが<召喚タイプ>の方で、条件が許す場合、
召喚したもののサイズは元のまま。
※召喚サイズが、体のサイズを元にしている場合は小さくなる。
※例)召喚した鉛筆は、ねずサイズのあなたにとって大きな武器になるかもしれない。
例)召喚した動物に、乗ることができるかもしれない。
○持ち物
・衣服のほかに、吸い込まれた時に持っていて自然な物を1つだけ持ち込むことが可能。
・持ち込んだ持ち物は、小さくなっている。
・自然豊かな隠れ里で、必要なものを調達することもできる。日本の山里を想像し、探してみよう。
補足情報
◇キーワード
○『鈴島のウシ』
7月、鈴島の古代遺跡が発見された。
古代遺跡にはウシのようなものが封印されており、クローネがそれを連れ去った。
参考)「鈴島、森に隠された古代遺跡」読んでいなくても問題ありません。
○『ねず』
古くから寝子島の地下に暮らす身長20cm程度の小人。
人目を忍んで暮らしており、人間はねずのことをほとんど知らない。
参考)「猫鳴館、ネズミ騒動」読んでいなくても問題ありません。
◇登場NPC
○鳶色彦
猫鳴館の地下に住む、身長約20cmのねず族の少年。
白っぽい古代風の着物を身に纏い、腰には獣の牙の短刀、鳶色の髪をみずらに結っている。冒険は好む方。
○野々 ののこ
らっかみだけど今はひとと同じ。らっかみだった頃の記憶を失っている。
今回の隠れ里も、夢だと思って楽しんでいる。「大きい猫に乗れてうれしいなー♪」
○テオ
ネコのらっかみ。ののこと一緒に隠れ里に吸い込まれてきた。
落神伝説の巻物とやらを、クローネに渡すわけにはいかない、と思っている。
○クローネ
ののこやテオと敵対するカラスのらっかみ。
ののこに記憶がないと知り、がっかりしていた。
近ごろ、鈴島の遺跡に封じられていた謎の『ウシ(牛)』を手に入れた。
○南波 太陽、剣崎 エレナ、海原 茂、串田 美弥子
みなさん同様、わけもわからず隠れ里に来てしまった。
他の人が行く方にくっついて行って、なんとなく花を探したりしている。
ホワイトシナリオです。みなさまのお力が必要です! ご参加お待ちしています。