ネコミュージックフェスティバルｉｎＳＵＭＭＥＲ！｜リアクション

ネコミュージックフェスティバルｉｎＳＵＭＭＥＲ！

●スターステージ：夕方の部

　傾き始めた太陽の光を圧して輝くスポットライトを、フィンレイ・ランカスターは仰ぐ。紅薔薇色の瞳が眩しげに細くなる。白い頬に金糸の睫毛の影が落ちる。
(あの頃私にはいつも彼が居てくれた)
　スターステージの央に立ち、不幸にして喪った最愛の相方を想う。
　あの頃は、一人でステージに居ても決して一人ではなかった。アイドルデュオ『Sandalphon』のフィンレイ・ランカスターである、そのことが心強い支えだった。
　けれど今は、ひとりきり。
　スポットライトの白い光と熱が瞳に降る。
　隣に愛しい温もりのない今が、スポットライトの人工的な温もりしかない今が、ひどく切なく思えて、それでもフィンレイは毅然と痩身を伸ばす。
　光を仰いだ瞳を下ろす。普段は閑静な星ヶ丘駅前に設けられた、小ぢんまりとしたスターステージの前の専用席に座り此方を見つめる人々を一人ひとり見つめ返す。きっと昔からのファンも来てくれている。
　夏の匂いの風が、金髪を緩く結わえたリボンを揺らして過ぎる。
　このリボンの由縁を、彼らは知らない。
「元『Sandalphon』のフィンレイ・ランカスターです」
　運営スタッフ達がキーボードを設置しているその間、観客と向き合い丁寧に挨拶をする。
　事務所の移籍を伝え、ライブ後は修業の為にまた海外に戻ると本当の事情を隠して心苦しい嘘を吐く。
「初心に帰った気分です」
　生真面目な微笑みを浮かべてマイク越しに声を響かせた途端、脳裏にふわり、下積み時代の記憶が蘇った。あの頃も、私服の身一つで数々の小さな仕事に挑んだ。
「初公開が生演奏となります。では」
　楽器の設置を終えたスタッフに小さく頷いて返す。キーボードの前に座る。
　予定されている楽曲は後日CD発売予定の新曲、『Memory Leaf』。学生の恋心を歌う優しい歌。
　鍵盤に触れる。光が乱反射するように、音が広がる。音に乗せ、飾らない気持ちを全て伝える為に、愛する歌を歌う。　
　最後の音節を弾き終えて後、フィンレイはふと優しく寂しげな瞳を観客へと向ける。
「現状CDには入らない予定ですがもう1曲聞いて下さい」
　曲名は同じ、けれど響く音も声も、どこか悲しく寂しく、――強い。

　誰も居ない部屋の隅
　日記を捲ってみています
　思い出すのは君のこと
　近づくだけで痛み覚えた出会いの日
　いきなり開き当てました
　泣いて怒って怖がって
　僕も君も嫌いになったね

　メモリーリーフ
　悲しい色
　風が優しく攫ってく
　今穏やかに息吹き返すあの日の2人にこの歌を

　日記の数が増えるほど知識が感情（ココロ）を覚えてほんの少しだけ優しくなる

　感情（ココロ）はいつも知識を超える
　怖がりな僕の欠片をさびしがりだと認めたら
　疑うよりも素直になりたい
　明日の扉のその先に君の姿を願い　この歌を