ネコミュージックフェスティバルｉｎＳＵＭＭＥＲ！｜リアクション

ネコミュージックフェスティバルｉｎＳＵＭＭＥＲ！

　胸の内、ことことと心臓が跳ねている。
　町の灯が、人々の熱気が、今日ばかりは遠ざける夜の闇を仰いで、綾辻綾花は隣を歩くあおいの楽しげな横顔を見遣る。胸のどきどきを伝えたくて、まだまだ多い人込みに友人とはぐれたくなくて、あおいの手を取る。
「みんなみんな、凄い迫力でした」
「うん」
「ミュージカルは初めて生で観れて凄く楽しかったです」
「皆、すごかったよね」
　少し疲れて、けれどはしゃいで笑うあおいに、
「……でも、良かったんですか？　猫の飼い主さん、折角車で送るよって言ってくれてたのに」
　綾花は少し瞳を伏せる。
　舞台裏の出入り口近くで、預かっていた白い子猫を主に返す際、あおいは八神修からの提案を申し訳なさそうに断っていた。
　修もそう気にした様子は見せず、また学校で、と微笑んでいたけれど。二人共、もしも自分を気遣ってのことだったら、と困った顔をする綾花の手をぎゅっと握り返して、あおいは首を横に振る。
「今日は歩きたい気分だったから、いいの」
　あおいの明るい笑顔に、綾花は安堵して微笑む。
「あっ、CD聴きますか？」
　夜空の下で、綾花は携帯CDプレイヤーのイヤホンを片方差し出す。プレイヤーを操作し、再生させるはメンデルスゾーンの『真夏の夜の夢』。大事に胸に抱いて、サイン入りの寝子島交響楽団のCDアルバム。