小さな公園｜リアクション

小さな公園

　多くの寝子島の住民がそうであるように、綾辻綾花は猫が好きだった。
　若き獣医師ジェレミア・ベルトーニもそうしていたように、猫専用のメモ帳と水筒を手にすると、濃い緑のカーテンの中ひっそり佇む猫鳴館を後にする。
「おはようございます、今日も見回りですか？　ご苦労様」
　九夜山の麓では農家で飼われている、ねこねこパトロール隊が今日も畑ネズミの駆除に、駆けずり回っている。
　綾花が静かに声を掛けると、鍵尻尾の猫は目と尻尾だけをぴこぴこ動かして挨拶し、サツマイモ畑の一画にジャンプした。
　うまく捕まえられただろうか？　束の間、膝を折って観察していたが、葉の間から頭を覗かせた猫は何も咥えておらず、そ知らぬ顔で向こうへ行った。
「どんまいです」
　茶ぶちの猫が、どてりと白いお腹を見せて、綾花の前に横倒しになった。
　そのままの姿勢で、金色の双眸がチラリと綾花を見る。撫でろ、と言いたいらしい。
　少し土で汚れているが、遠慮無く、綾花はもっふりタプタプのお腹を撫でる。
「今日もいいお天気ですね、お腹は空いてませんか？」
　気持ちが良いのか、地面で身をくねらせる猫を構ってやっていると、横合いから突然先ほどの猫が飛び出した。
「きゃあ！」
　豊かなお胸でバランスが崩れやすいのか、綾花は吃驚した拍子に尻餅をついてしまった。
　と同時に、茶ぶちが超反応し、飛び上がって空中回転しながら同胞に前足を振り回す。
　目にも留まらぬ速さで、繰り出される連続ねこパンチ。ふとっちょのくせに、案外やるらしい。
　慌ててＵターンして逃げる鍵尻尾を追いかけて、茶ぶちは畑の茂みの中に消えていった。
「ふふ、凄い運動神経ですね。ちょっと、うらやましいです……」
　ガササと逃げる鍵尻尾と、追う茶ぶちの動きに合わせて揺れる茂みに、綾花は小さな笑みを零した。
「もうあんな所まで行ってる……本当に元気ですね」
　よいしょと立ち上がってお尻の砂を払うと、綾花は転ばないように気をつけつつ、緩やかな坂を下り始めた。
　せっかくのお散歩日和。猫達と素敵な休日を過ごすのが、生まれも育ちも寝子島な綾花のフェイバリットだ。

このページにイラストを設定する