ねこ……。｜リアクション

ねこ……。

　そこへ新たな客がやって来た。
「猫さん、可愛い……もふらせてぇぇぇぇ！！」
「うあああ、ぬこっ！　ぬこが居るうぅ～～！！」
　輪に加わったのは、ゆるふわヘアーを猫ピンで留めた恵御納夏朝と、黒猫パーカーの黒兎都。
　どちらも生粋の猫スキー。

「あぁぁ、驚かせてごめんなさいフーシャーしないで……」
　二人の勢いに怯える猫達は、毛を逆立てて威嚇している。
「でも……」
　夏朝の眠そうな瞳が、更にとろんと細まる。
「フーシャーしてるのも可愛いぃぃぃ！」
　感極まった夏朝が、猫に抱きつく。当然、ぱりぃと爪で制裁を受ける。
　それでも夏朝は、猫を撫でたり、もふったり写真撮ったり、じゃらしたり。
「うふふふふ……あぁぁ、猫さん可愛いなぁ……！」

　羨むのは、都だ。
　何せ、都さん猫日照り。４月に巨大化した仔猫に触れられたまでは良かったが、それ以降、猫と触れ合う機会がないのだ。
　だって、逃げられちゃうから。
　猫は自分に向けられる視線に、敏感だ。だから都が、仲良くなろうと頑張れば頑張るほど、逃げられるという悪循環になっていた。
　理不尽、こんなに好きなのに！
「触らせてくれる、ぬこみっける……」
　浅い呼吸を繰り返しながら、都は手をわきわきさせつつ、猫ににじり寄る。
「触らせてくれなくても、逃げないだけでもいいから……逃げなければ引っかかれようが、ガブガブされようが許すから……」
　声震えてます、都さんっ！
　そっと手を伸ばした都のパーカーの袖を、猫の爪が掠めた。
　そのまま、ビクビクと都の顔色を伺いながら身を低くしている。
「……パーカーが……」
　袖口を見れば、見事にほつれていた。都は赤い目を大きく見開いて、灰色の猫をまじまじと見下ろす。

「――天使かっ！！？」

　感極まる都、駄目だコリャ。
「……頼むから、逃げないでください、お願いします……」
　しかも土下座。
　媚びる都の胸元で、パーカーの紐がぷらぷらしている。誘惑に誘われた猫が、ちょっかいを掛け始めた。
「あああ、うちのお気に入りで悪戯を……マジ可愛いっ！！」
　恐る恐る指先を向ければ、習性で匂いを嗅いでくる。
　さらには指の上に、ちょこんと前足を乗っけてきた。
　肉球！！　感動した都が、ちょいちょいと肉球を持ち上げる動作をすれば、猫の丸めた指先に力が篭り、ググッと爪が食い込む。

　――幸せすぎて、明日死ぬかもっ！！

「はあ。些細な仕草も可愛くて、いつまで見てても飽きないです」
　舌なめずりする猫達を見ながら、綾花がうっとりと溜息をついて、都は激しく同意した。
「これは待ち受けにしましょう」
　可愛く取れた携帯の写真に、綾花は嬉しそうに微笑んだ。

　そして夕刻、影が長く伸びる頃。姫はもう帰る時間。
「能美子ちゃん、虹子ちゃん、今日はありがとう。色んな所に行ったこと、すっごく楽しかったのって、お父さん達にもお話したいです。服は汚れちゃったけど、冒険した証です！」
　満足げに笑う姫を、二人の少女は眩しいものを見つめるように頷く。
　能美子の手には、幼い友人と猫のスリーショット。
　自分でも首を傾げるくらい、暴走した一日だったけれど。
　この写真を見れば、こんな日も悪くないかな、なんて。

　夏朝は猫に掻かれた傷を、水道で洗いながら涙目になっていた。
「……何で僕は、猫さんフーシャーさせてまで、もふりたかったんだろう……」
　猫達にしつこくした自分に、反省。
「猫さん……ごめんね、驚かせて」
　律儀に謝る。猫達は今は何事も無かったかのように、夏朝の足元に侍っている。
「だって猫さんは悪くないもんね……」

　桜庭円の傍には、いつしかにゃーくん以外居なくなってた。
「うむ、仕方ない。にゃーくん帰って一緒に、お風呂はいろうか……」
　円、まだ手がわきわきしている。
「いや、この手はいやらしくないよ！　違うよ」
　全身から猫缶臭さを発散させながら、言い訳する円の肩に、にゃーくんは何時ものように、すとんと乗った。

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