あつくてあつくて｜リアクション

あつくてあつくて

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いつもは学生でいっぱいの桜花寮も、夏休みになると帰省する学生が多いのか人はまばらになってくる。
七音侑も、そんな実家帰省組の一人。
だけどもせっかくのお休み、どうせなら帰省前に遊びたい！

そんな彼女に誘われたのは、工藤耀。
待ち合わせ場所で、名前を呼ぶ元気な声に振り返る。
「工藤くーん！」
「よ、七音」
駆け寄ってくる侑の服装は、いつもよりちょっとおしゃれでおめかしばっちりな感じ。
一方耀はいつも通りで、内心もうちょっと考えればよかったか――なんて思ったり思わなかったり。
「待たせちゃった？　ごめんにー」
「俺のほうが家近いし、気にすんなよ。で、映画だっけ？」
そうだに、と侑はバッグから小さな映画情報誌を一冊取り出す。これ、と彼女が指したのは、封切りされたばかりの人気アクション洋画だった。
女の子は恋愛ものを選ぶ、とばかり思っていた耀にはちょっと意外なチョイス。だけども正直、こっちの方がありがたい。
「よし、じゃあ行こうぜ。いい席無くなっちまうと困るしな」
「えへへ、楽しみだにー♪」

……そんな風に二人が楽しそうにしているのを、離れたところから見つめる人影があった。
偶然にもお互いの弟分と妹分が一緒にいる所を発見した俺達、じゃない服部剛と桐野正也である。
「あの工藤が……女の子と……！？　これは事件や……」
弟分の意外な場面に好奇心を発露させる剛に、
「なんか楽しそうだなあ、二人とも」
おめかしばっちりな妹分の姿に、びみょーに複雑そうな顔の正也。
「話はよう聞こえんかったけど、買い物とかやろか？」
「いや、侑の場合お菓子しか買わないからないだろそれは」
遠足前の小学生でもあるまいし。
「よし、尾行してみよか！」
唐突に剛がそんなことを言い出した。
「なんだよ服部」
「だってめっさ気になるし、何より……おもろそうやん☆」
本音を一切隠さない、潔い笑顔。おもしろそう、はともかく二人が気になるのは正也も同じ。
「……よし、尾行してみるか」
とはいえそれでいいのか兄貴分！　万一バレたらきっと株大暴落だよ！
「なあ、尾行ならグラサン必須じゃね？」
「せやな、気づかれんようにせんと。ええ判断や不憫刑事」
「不憫刑事って俺のことか！？　……そだ、あんパンと牛乳も買うか？」
あんパンと牛乳、それはむしろ張り込みではないだろうか。
というか、グラサンかけてあんパンと牛乳持って歩く二人組って相当不審者度が高い。
兄達の明日はどっちだ！

映画館。
「映画にポップコーンはつきものだよねっ♪」
ポップコーン片手に、ウキウキした様子の侑。当然、隣は耀である。
「……」
「に？　どしたの工藤君？」
「いや、なんか視線を感じるような……」
「？」
その視線の正体は、二人からちょっと離れて後方のシート。お察しの通り、正也と剛である。グラサンは相変わらず装着中だ。
「これで恋愛映画だったらどうしようかと思ったぞ俺は」
「俺ら二人で恋愛ものはちょっちな……」
ブザーが鳴り響き、映画の上映が始まった。

流石人気なだけあって、CGを駆使したアクションシーンは派手で爽快。難しいことを考えず、見ていてスカッとするような場面の連続！
そして、ラブシーンもがっつりしていて。
（愛は地球を救う、的な？　ま、悪くはねーな）
耀はちょっとびっくりはしつつも、そこも含めて楽しんでいた。
一方、侑はと言えば。
ラブシーン、特にキスシーンなんかが映しだされる度にあうあうしていた。
ポップコーンを食べるのも忘れ、画面を見ていられず視線があっちこっち右往左往。
幸いなのは、耀がその様子に気づいていないことだろうか。
もし、ちらりとでも彼が視線を向けていれば、侑の珍しい姿を見ることができたのだけれど。

後方の兄馬鹿二人。
「なあ、桐野」
「どうした」
「……グラサン付けっぱって、めっさ見にくいな」
「……そりゃそうだろ」
一体何をやっているんだか。