山でレンジャー！｜リアクション

山でレンジャー！

　山の適当なところに足を踏み入れて歩くこと数十分。塔尾松生は肩に掛けたトートバッグを何度も引き上げ、頼りない足取りで斜面を休み休み歩いた。
「飛行部隊なんて、あるのかな」
　眠たそうな目でボブカットの頭を上下に振りながら歩を進める。頭頂に乗っていた葉っぱがはらりと落ちた。
「疲れてきたんだけど」
　松生は立ち止まった。瞼を閉じてみる。
「……まだ、飛べないのね。もう少し眠くならないと」
　再び、歩き出した。長袖シャツに付いた蜘蛛の巣を手で払う。腐葉土に沈み込んだスニーカは脱いで逆さまにして振った。
「少し休みたい」
　松生は適当な木に背中を預けた。七分丈のジーンズを穿いた両足を伸ばす。手前に落ちてくる光をぼんやりとした目で見やった。青いね、と表情の乏しい顔で呟いた。
　一瞬、日が陰った。松生は重い腰を上げた。
「自転車まで空を飛ぶのね」
　飛び去った方向に虚ろな目を向けた。上体が不安定に揺れる。酷い睡魔に襲われている状態で身体が浮き上がった。両方の手をだらりと下げて、上方に引っ張られるかのようにして低い位置で飛んだ。
　半開きの瞼でも前方が見えているのか。木の幹に当たる寸前で、ゆらりと躱していった。