山でレンジャー！｜リアクション

山でレンジャー！

　登山道入口駅に旅鴉月詠が単身で現れた。太陽に照らされた長い髪は白銀の輝きを放ち、赤いバンダナの結び目が側頭部でリボンの役割を担う。水色の軽めのブラウスの上にモスグリーンのパーカーを着て、下は活動的な長ズボンを履いていた。山道を見据えた登山靴で軽やかに歩き、待機していたゴンドラに乗り込んだ。
　斜め下に流れてゆく景色の瞬間をデジカメで切り取る。赤い目は感性に従って動いた。次々と被写体を収めていった。
「滑り出しは悪くない」
　展望台前駅で降りた月詠は頂上に通じる道を歩いた。赤い目はセンサーのように精緻な動きを見せた。スケッチブックを抱えた手にも力が籠る。途上に黒い甲虫が逃げ惑うかのように現れ、素早く画用紙に写し取った。
　道端の白や黄色の可憐な花々を尻目に月詠は山頂に到着した。高さよりも広さを感じさせる。海は空の色に酷似して果てがないように見えた。
　月詠は雄大な自然と黙って向き合った。涼しげな風が頬を撫でた。促されたかのように方々に顔を向ける。
　何かを見つけたのか。月詠は目を留めた先に赴き、しゃがみ込んだ。
「いいね」
　視線を下げたところに小さな花が身を寄せ合っていた。紫色の花弁は細く、どこか線香花火に似ていた。
　月詠は開いたスケッチブックに花の姿を写し取る。繊細な筆致は儚さまで表現しているかのようだった。

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