山でレンジャー！｜リアクション

山でレンジャー！

　九夜山の登山ルートから外れた上空を澪乃澄佳が前のめりの姿で飛んでいた。重さを感じさせない綿毛のように、ゆっくりと進む。
「山の風は気持ちいいねえ」
　被っていた麦藁帽子を片手で押さえた。ゆったりとした緑色のワンピースが風を孕む。少し吹く方向が乱れて白いレギンスを露わにした。
　澄佳は捲れ上がったスカートを両手で押さえて、はにかむように笑う。
「エッチな風さんだねえ」
　背筋を伸ばしたまま、縦に回って下降した。見つけた枝の先端を軽く踏んで斜め上に飛び出す。回るように上昇していった。
　自転車に乗った藤寿が追い付いて中空で並んだ。
「こんな時に、楽しそうだな」
「ふへっ、こんにちは。藤寿さんも空の散歩ですかあ？」
「そんな呑気なことを言ってる場合かよ。下を見てみろ」
　藤寿は顔を斜め下に振って見せた。回るのを止めた澄佳が俯き加減で目を瞬いて、おお～、と間延びした声を出した。
「なして霧が。こんなにいい天気なのにねえ」
「ちょっと待て。よく見てみろ、色がピンクだ」
「珍しい色の霧だねえ」
　微笑む澄佳に藤寿はぎこちない笑みを返した。即座に顎で自転車の荷台を示す。
「乗せてやるよ。飛行部隊の山小屋が心配だ」
「あ、うん、そうだねえ」
　視線を逸らした澄佳は、片方のおさげを指で触りながら煮え切らない態度を取った。
「仲間だろ。遠慮するな」
「うん、あたし。そのぉ、ぽっちゃりだから、どうかなあ」
「箒で人を乗せたこともある俺だ。安心しろ」
　力強い言葉に澄佳は小さく頷いて横向きで荷台に乗った。
「飛ばすぜ！」
　二人を乗せた自転車は風に逆らって飛んだ。間もなくしてピンクの霧の中に突っ込んでいった。

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