山でレンジャー！｜リアクション

山でレンジャー！

　黒いＴシャツに茶色い半袖のジャケットを着た風雲児轟が仁王立ちの姿で山と対峙した。手にした黒いバンダナを頭に巻いて、よっしゃぁ、と気合を入れる。
「準備万端だぜ！」
　片方の肩に掛けたナップサックを力強く引き上げた。
「登ってやるぜ！　標高は忘れちまったがな！」
　威勢の良い声で山を登り始めた。
　轟の歩幅は小さく、ゆっくりとした足取りであった。黒いズボンはストレートで所々に皺が寄っていた。膝が曲がり難い様子は見られない。
「ちょっと遅いかなぁ」
　口にした瞬間に思い直して顔を左右に振った。
「山の初心者が最初から飛ばすとロクなことがないぜ！」
　熱い言葉に反して冷静な判断を下す。
　登り始めて二十分が過ぎたところで一回目の水分補給を行った。透明な容器に入れたレモンのハチミツ漬けを口にして頬を引き締めた。
「疲労回復には最高だな！」
　轟は歩き始めた。視線を下に向けて小石を踏まないように心掛けた。着実な一歩を重ねていくと、冷気のようなものが足元に流れてきた。
　顔を上げた轟の視界が一色に染まる。
「なんかピンクの霧っぽいのが出てきたな」
　立ち止まって山道の先の方に目を凝らす。合間に強い瞬きを入れた。
「はっきりと見えないな。このまま登り続けて大丈夫なのか？」
　立ち止まっている間に轟は霧に包まれた。双眸に強い意志の光が急速に満ちていく。
「焦りとは違う。なんか気分が高ぶってきたぞ！　よし、登り続行だ！」
　両拳を素早く引いて腰に当てる。力を溜めるような間で垂直に跳び上がり、右足を大きく横に開いて着地した。
「うおおおぉぉ、レンジャー！」
　右腕を斜め上に突き上げて叫ぶと、一気に走り出した。
　足場の悪さは脚力で捻じ伏せる。息切れは、レンジャー、と叫んで掻き消した。