おいでませ！　おひとりさま｜リアクション

おいでませ！　おひとりさま

「マジか」
　御剣刀は携帯を閉じるとそう呟く。
　いつも一緒に寝子島神社の境内で剣道の練習をしているのだが、携帯に届いたメールには急用で行かれなくなったと。
　剣道の修練は一人でしても構わないとはいえ……。
「……普段と違う練習でもしてみるか」
　なんとなく、一人で寝子島神社に向かう気になれず、刀はスポ－ツバックを担ぐ。
　向かうのは、寝子島スポ－ツセンターだ。
　ここのスポ－ツセンターでは、ランニングコ－スが室内にもある。
　テニスコ－トを二個分ほど要したル－ムランニングコ－スを、刀はきっちりと準備運動をしてから軽く流す。
（大分身体が温まってきたな）
　刀は緩急をつけて走り出す。
　短いダッシュと、緩やかなランニング。
　繰り返す事によって呼吸が乱れないように、刀はリズムを整える。
　一時間ほど走っただろうか。
　心地よい汗をタオルで拭い、刀はストレッチを行う。
　疲れた筋肉をこうしてストレッチで解し、筋肉を育てるのだ。
　自販機でスポ－ツドリンクを飲み、少しだけ休憩する。
（流石にジムは機材が揃っている）
　自販機の横の壁ガラスの向こうには、様々な筋トレの機材が見える。
　ル－ムランナ－にエアロバイク、クロストレ－ナ－、チェストバックにスクワット。
　レッグプレスも揃っている。
　刀は自分の身体を見る。
　無駄のない筋肉。
　剣道を嗜む身としては、自信の身体にたいする自信があった。
　だが、それでも、剣道だけでは鍛えきれない筋肉があるのも事実。
　刀は試すつもりで、数種類のトレ－ニング機器に手を伸ばす。
　特に効果を感じたのは、背筋トレ－ニングだった。
（高い負荷を感じるな。これが機材の力か）
　腕や脚の筋トレでは感じなかった筋肉への負荷を、刀は意識して動かす。
　筋肉は、使っている部位を意識したほうがより一層効果が増すからだ。
　ほんの数十分程度のトレ－ニングだったが、刀はもう、汗びっしょりだった。
　汗を拭う刀は、室内プ－ルに目をやる。
　やはりこの時期、プ－ルは必須だろう。
　汗をシャワ－でざっと流し、刀は室内プ－ルに入る。
　機材を使った筋トレとは違い、筋肉への高い負荷は感じられない。
　けれど、泳ぎ続ければ確かに筋肉が引き締まっていくのを経験として知っていた。
（……潜ってみるか）
　刀はすっと目を閉じ、プ－ルの底で座禅を組む。
　限界まで息を止め、肺活量を鍛えるのだ。
　すぐ側に人の気配を感じる。
　少女達だろう。
　水の中でも、楽しげな笑い声が聞き取れた。
（…………）
　刀がその声に何を思ったかは、わからない。
　冷静な彼は、すっと水の中を浮上し、プ－ルを上がる。
（小腹がすいたな）
　シャワ－をもう一度浴びて、刀はタオルでざっと髪を乾かす。
　この上天気。
　直ぐに乾くだろう。
（ファミレスによったら、あとで、剣道場も覗いてみるか）
　誰か来ているかも知れない。
　一人のトレ－ニングは充実していたが、それゆえに、仲間を誘いたくなるというもの。
　刀はファミレスに歩きながら、さて、誰を誘おうかとスマフォを開いた。