おいでませ！　おひとりさま｜リアクション

おいでませ！　おひとりさま

「星ヶ丘マリーナまで４、５ｋｍってところか？」
　中之条靖史は愛車のボンネットに腰掛けて、そう呟く。
　靖史の住む、ここ旧市街からだと、車なら十分足らずで着くだろう。
　ドライブというには少々短過ぎるが、靖史は煙草を咥えて運転席に乗り込む。
　キーを回し、愛車を走らせる。
　数分もしないうちに、寝子島魚市場に差し掛かる。
　寝子島漁港に隣接した市場は、今日も新鮮な魚で溢れていた。
　潮の匂いが立ち込めている。
（魚って言うもんは、妙に惹かれちまうな）
　適当な場所に車を止めて、靖史は市場をそぞろ歩く。
「よう、今日の魚はどうよ？」
「新鮮ですぜ、旦那。夏といえばこいつ、カツオで決まりでしょ！」
　市場の漁師が靖史にカツオを一匹ドンと見せる。
　ふっとりとした腹と、艶やかな煌めきは、なるほど、旬の魚だった。
「いいね。お幾らだい？」
「よっ、大将毎度ありっ。3000円になりやす！」
　くるくると新聞紙で包み、ビニ－ル袋に。
「ありがとさん。そういや、今年の海はちぃとばかし例年と違うんだって？」
　会計をしながら、ふと、靖史は思いついて尋ねてみる。
「そんな噂を一体どこで？」
「まぁ、適当な噂話でね。春あたりから様子が変わったとか」
「口の軽いやつもいるもんだ。いや、遅かれ早かれ噂になるもんだし、仕方ねぇ。ここだけの話、落神伝説が関係しているらしくてねぇ」
「落神伝説だって？」
　声を潜める漁師に、靖史の黒い瞳が真剣味を帯びる。
　伝承系ルポライターの感が疼くのだ。
　これは、仕事になると。
「あぁ、詳しいことはわたし共も知りはしないんですがね？　なんでも巨大サンマが大量襲来したとか、蛍烏賊が空を舞ったとか、果てはクラーケンを見たとか、真実味のある話から突拍子も無い話まで、色々噂が飛び交ってましてねぇ」
　ただの噂ですけどねぇと、漁師は締めくくる。
「その噂は、いつ頃からだい？」
「そうさなぁ、今年の春頃だったと思うんですがねぇ」
「ふむ……」
　今年の春。
　何があったのだろう？
　先日は海辺のみで異常気象が発生したという噂も聞いた。
　確かに、今年は何かが違う。
　靖史は漁師に礼を言うと、再び愛車に乗り込んだ。
　寝子電沿いに街道を走らせると、肩に猫を乗せて走る少年を追い越した。
　犬の散歩は多いが、猫の散歩はあまり見ない。
　大切そうに猫を抱える少年を微笑ましく思いながら、靖史はシ－サイドタウン駅に辿り着く。
　車を止めて、適当に店を見て回る。
（いいねぇ、若者って言うのは。活気に溢れてる）
　駅からすぐ側のキャットロ－ドは、夏休みの学生たちで賑わっていた。
　高校生ぐらいの少年がが、雑貨屋の前でじっとキ－ホルダ－を眺めていたり。
　カメラがあればシャッターを押したくなる所だった。
　何箇所か店を覗くと、靖史は再び車に乗り込む。
（海岸沿いでも行くかね）
　街道を降り、寝子ヶ浜海岸沿いの小道を走る。
　海岸では、カップルもそうだが、家族連れも多い。
（ん？）
　一瞬、靖史はブレ－キを踏み掛ける。
　河童がいるように見えたのだ。
　無論それはただの見間違いで、実際には緑の褌とサラシを巻いた少女だったのだが。
　イベントか何かをやっているのだろう。
　靖史はそのまま星ヶ丘へと向かう。
（まぁ、ここは通り過ぎるだけなんだが）
　シ－サイドタウンや旧市街と違って、星ヶ丘は靖史にとって馴染みが薄かった。
（高級料理店にブランドショップなんざ、ガラじゃねぇしな）
　靖史は苦笑して、そのままＵタ－ン。
　丁度いいタイミングで、腹が空腹を訴えた。
（そういや、何も食ってなかったな）
　旧市街に戻って、蕎麦でも食おう。
（その前に、カツオをきっちり捌くけどな）
　靖史は煙草を咥えなおし、旧市街の下宿へと車を走らせた。

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あとがき

担当マスター：霜月零
ファンレターはマスターページから！

　皆様、ご参加をありがとうございました。
　お一人様のとある一日という事で、同じ日だったり、別々の日だったり、時系列はバラバラに描写させて頂いております。
　そして今回、白紙アクションの方が二名ほどいらっしゃいました。
　ご利用ガイドに書いてある通り、『描写なし、もしくは少しの描写』とさせて頂いております。
　せっかく参加頂いたのに、白紙アクションは本当に勿体無いです。
　シナリオ参加されたら、『頑張る』等の短い仮アクションでよいので、早めにアクションを送信しておいて下さい。
　皆様どうぞよろしくお願いします。
　

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