カミキリ｜リアクション

カミキリ

○捜査開始！

　シーサイドタウンに髪切り魔現る。
　そのニュースは、被害者のねこったーへの書き込みや口コミで瞬く間に広がった。

「災難でしたね」
　木陰で八神修が、友人である鷹取洋二を慰めていた。
　青ざめ疲れきった洋二の後ろ髪の一房は、無残にザックリと切り取られていた。修は櫛で髪を整えてやったが、やはり地肌は隠せない。
「すきバサミだけでも入れると涼しいですよ。ところで……襲われた時の事を話してくれませんか？」
　鷹取は少し考えて口を開く。
「『暑苦しい！』って声がして、ジャキン！　と音がして……振り向いたら白い覆面の暴漢が、ハサミを構えて追いかけてきてた。
　僕も足には自信があるつもりだが、奴の速いこと速いこと……」
「犯人は男性ですか？　年齢とか、身長は？」
「逃げるのに精いっぱいだったからね。声は男のものだったと思うが、背はそんなに高くもなかったから中肉中背ってとこだろうか。年齢は……うーん」
「年齢は？」
「若い声のような気がした」
「ありがとうございます。これで犯人が探しやすくなります。興味があるなら一緒に会ってみませんか？」
「犯人に？　うーん、やめとくよ。ただでさえ暑い中逃げて疲れたし、この頭でそのへんをうろつきたくないよ」
「そうですね。犯人を見つけて、後で正体を教えますよ」
　頭を押さえて去る洋二を見送った修は、シーサイドタウンのとある店に入っていった。
　『カツラ・ウィッグ』と看板が出ている。
　間もなく箱を抱えて出てきた修は、今度は手芸店へと入るのだった。
　
「暑いな……」
　御剣刀は、うっとおしい前髪をかきあげた。
　自分の目つきが悪くて他の人からの印象が悪いだろうからと、目つきを隠そうと伸ばしていた前髪。
　けれど最近、もっと大切なことがあるのではないかと思うようになっていた。
　髪を切ろう。
　そう思ってシーサイドタウンを歩いていると。
「よう」
　風雲児轟に声をかけられた。
　二人は時折事件で顔を合わせる仲だ。
　轟はシーサイドタウン周辺を散策しつつ、ねこったーで『＃寝子島の髪切り魔』タグを使って情報収集していたのだ。
「髪切り魔のことを知ってるか？長い髪とか暑苦しい髪型の人がいきなりハサミで髪を切られたらしいんだ」
　今日は女の子と一緒じゃないんだな、と思いながら轟は説明した。
「髪切り魔か。シーサイドタウンを歩いていたら俺も狙われるかな？」
　奇人変人の類なら警察の範疇だが、神魂の影響を受けた人なら放っておくわけにもいかないと思う刀。
「よし、囮になりながら髪切り魔の事を調べよう」
「なるほど……しかし御剣が狙われるかな？　前髪は確かに長いが」
　目が完全に隠れるほどではないし、後ろ髪は多少伸びているものの長いとは言えない。
　たくましい腕を見れば鍛えているのは一目瞭然、おまけに前髪を切りに正面に回ろうものなら、刀が気にしている鋭い目つきをまともに向けられることになるのだ。
「どうだろうな。まあやってみるよ。覆面を被っているなら人目につかないように動くだろう。俺も周囲を警戒しながら人目の少ない場所を選んで歩こう」
　と告げ、刀は裏路地へ向かっていった。

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