カミキリ｜リアクション

カミキリ

○ハ○って言うな！

　九十九髪夜光は、光る頭の汗をぬぐいながら、路地を歩いていた。
　ただ歩いていたわけではない。彼は怒っていた。
（髪切り魔だと……！？　な、なんてひどい事をするんだ！
　髪は永遠の大事な友達！　生えたくても生えない悲しい人達も居るんですよ！）
　夜光の頭は、１６才にして毛根が死滅していた。
　なのに姓は「九十九髪」。なんという皮肉か。
　大体の事は許せる心の広い夜光も「ハゲ」という言葉にだけはガチ切れするのだった。
「許せない……髪を無碍に扱う奴なんて坊主になればいいんだー！」
　という訳で、夜光は髪切り魔を捕まえるべく見回りしていたのだ。
　そんな夜光の前方に、男にしては髪の長い学生の姿が見えた。
（今までの情報から察するに髪量のある人物が狙われる……その人をマークすれば奴は現れるって寸法だ！）
　さっそく夜光は尾行を始めた。

　後木真央は、ねこったーで髪切り魔の噂を知った。
「神魂なら少し経つと抜けると思うのだ宿った時の形を変えても憑いていられなくなると思うのだ。ろっこんならある意味処置なしだと思うのだ。でも今回は錯乱してるだけな気がするのだ～」
　とにかく、捕まえて懲らしめなくてはと準備する。
　缶入りスプレーペンキ（セブンの時に買った残り）、強力水鉄砲（水１Ｌ入り）、デジカメ。
　そして猫鳴館の所有者不明なおんぼろチャリ。
　これは数代前の先輩がおいて行ったと思われるもので、鍵はなくよく勝手に借りて乗り回している。
「犯人が割れない、が１番まずいのだ。これから夏になるたびに同じことしそうなのだ」
　その時、ねこったーに新たな書き込みが。
『髪の長い男を尾行てるハゲがいる。これって髪切り魔じゃね？　場所は……』
「さっそく出たのだ！」　
　真央はチャリにまたがり走り出す。
「いた！　でも覆面してないのだ？」
　ちょっと疑問に思ったが、暑いし覆面はこれからするのかもしれない、と考える。
「先手必勝なのだ！」
　真央は、そのまま相手を轢こうと夜光めがけ特攻した！
「うわっ、危ねえ、何しやがる！」
「髪切り魔、覚悟なのだ～！」
　すんでのところで避けた夜光。その顔に真央は、容赦なく水鉄砲を浴びせる。
「俺のことか？　……髪切り魔に間違われた……だ……と！？
　ハゲか！　うちの事ハゲだと思ってそんとなことぬかすんじゃけんか？」
　濡れた顔をぬぐいながら呆然としていた夜光の頭が、怒りで赤く染まった。
「何か途中から広島弁になってるのだ？　いや、真央ちゃん別にハゲとは言ってないのだ、ただねこったーにハゲが尾行してると書いてあったので……」
「人が気にしょーることを……怒りたんよ！　もう許せんのじゃ！」
　夜光のろっこん『ハゲの明星』が発動する！
　目も開けられないほどの光がハゲ頭から放たれた。
「うおっ眩しいのだ！　これじゃ写真が撮れないのだ～！」
　夜光が卓球のラケットを取りだし、眩しさに目潰しされた真央に必殺スマッシュを食らわせる！
　やられるのだ……と真央が覚悟した時。
「やめろ！」
　そこへ、誰かが駆けつけ、割って入った。
「え？　その声は……まさか？」
　目を疑う真央。
「しゅ、修ちゃん？」
「ハサミで攻撃してこないということは、この男は髪切り魔じゃなさそうだ」　　
「なるほどなのだ。いきなり攻撃してごめんなさいなのだ。それとハ……いや、ほんとにごめんなのだ」
　ＮＧワードを言いそうになった口を慌てて押え、神妙に頭を下げ謝る真央。
「ああ……まあわかったならいいさ」
　どうにか冷静になった夜光がラケットをしまう。
「それにしても修ちゃん、そのカッコは……そんな趣味があったのだ？」
　まじまじと見ながら真央が言う。
「この付近をゆっくり流していれば髪切り魔に遭遇するんじゃないかと思ってな」　
　修は長い髪をかき上げた。
　