カミキリ｜リアクション

カミキリ

○髪切り魔と勘違いお姉さん

「なんか後ろが騒がしいなあ？」
　夜光が尾行していた多喜勇生は、シーサイドタウンの工具店のタイムセールに向かっていた。
「ねこったーに通り魔の情報が出てるけど、そうそう出会わないよね！」
　こないだの穴騒動の時もタイムセールに行き損ねた勇生は、今度こそ！　と意気込んでいた。
　夜光と真央の騒動にも、気にしていられないと先を急ぐ。
　その油断がフラグを呼んだのか。

【ジャキン！】
　気付いた時には、背後からハサミの音が！
　切られた髪が飛び散り、慌てて飛びのいた。
「うわあ出たぁー！　って何か殺気立ってない？　なんで？
　ああそうか僕の髪型がめっちゃ暑苦しいからか！」
「そうだ！　暑苦しいんだよ！」
　覆面男が叫ぶ。一撃で飽き足らず、もっと切ろうというのかさらにハサミを振りかざして。
「こんなぼさぼさでもっさりした癖っ毛、切りたくもなるよね！」
「そう思うんなら！」
「気持ちは判る！　でも勝手に切らないで！　危ないよ！」
　その時、「戦衣着装！」の声と共にポーズを決め、知る人ぞ知る寝子島のヒーロー『ザ・ストレイト』が現れた！
　それはねこったーを見て駆けつけた轟がろっこんで変身した姿だった。
「もうこんなことはやめるんだ！　今のところ被害は髪の毛だけだから捕まっても罪は軽い！　それに逃げたとしても無駄だ！　お前は完全に包囲される予定だし、なにより島にいる限りは俺が絶対逃がさない！」
　抵抗するなら全力で捕まえにかかろうと考えていたストレイトだが、敵はあっさりと逃げ出した。
「待て！　これ以上無用な犠牲者は出させねえ！」
　建物の一角に追い込むよう誘導するストレイト。
　そこに追い込めば逃げ場は限定されるから捕まえるのも容易になるだろう。
「だが最初に言っておく。ハサミじゃ俺のメットは切れないからな！」
「助かったぁ、ありがとー」
　勇生もお礼を言いながら追跡に加わる。

　藤谷美鶴は、開業医である。
　季節は８月。暑いと患者が増えそうなものだが、救急ならともかく個人病院には、暑い昼間はあまり患者も来ない。
　いつも病院に来ている徳三さん（８３歳）が、
「シーサイドタウンで、タダで髪を切ってくれる人がいるんだと」
　と言うのを聞いた美鶴は、
「素晴らしい」
　と昼休みに自転車に乗って、よく出るというポイントまで向かうことにした。
　最近、アンティークの懐中時計を買って懐が寂しいので、ぜひお願いしたいと思ったのだ。
　ロングとはいえ美鶴の髪は綺麗にまとめられていて、暑苦しさとは縁遠いのだが。

　さて現場につくと物々しい雰囲気の学生さんがチラホラ。
（最近の寝子高は物騒になったのかなー）
　卒業生としては複雑な気分で頭をポリポリ掻く。
　とりあえず絡まれるのは面倒なので、日陰を選びながら自転車を押し徒歩で散策することにしたが。
「やあせにょりーた、髪切り魔を見かけなかったかい？」
　追いかけたものの結局見失った信彦に声をかけられた。
　本人は真面目に聞き込みしているつもりだが、つい女性にばかり声をかけているのでナンパとほとんど変わらない。
「髪切り魔？　そう呼ばれてるのかしら。会いたいと思って来たんだけど」　
「な、なんだってー！　髪切り魔を捕まえるつもりなのかい？」
　驚く信彦。
「ええ、私の髪を切ってほしいの」
「ええー！　なんだってー！　そんな無茶な」
　さらに驚きのけぞる信彦。
　髪って美容院で切るものじゃなかったろうか。
「あんまり短くするのは嫌なので、ちょっと髪型を変える程度……前髪を上に纏めるポンパドールって髪型でお願いしようと思うの。
　髪は切るだけじゃなく整えるだけでも雰囲気が変わるもんなのよ」
「なんだか美容院にいるような気がしてきたよ……違うよ、嫌がる人の髪を切っちゃう通り魔なんだってば。俺のガールフレンドも」
　信彦が説明しかけたところに、
「髪切り魔待て！」という叫び声が聞こえてきた。
　二人は顔を見合わせると、走り出すのだった。

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