【18】

「来たか……、スクラムを組んで衝撃に備えろ！」
　浮舟はろっこん『浮かぶ瀬は瞬刻にして』で作戦を構築。
　自身はフリーで動けるように指揮官として激を飛ばし、綾辻、カノエ、武美、追分に行動をさせる。
「ったく、俺はデスクワーク派だっつーの……！」
　二次元ラブな追分にとっては酷なミッションだが、彼は播磨にどうしても伝えたいことがあるのだ。
　だから畑違いでも頑張るのだ！
　と、そこへ集まる生徒たち。
「何の騒ぎですか？」
「物々しいですね……」
　御鏡 聖と御巫 時子の保健委員コンビだ。
　体育館から身体測定に使う機材を保健室へ運び込む途中なのだ。
「なんか、今日は男女の制服を逆に着ている人が多いですね？」
「保健室近くは元気な方が多いんですね……」
　事態を飲み込めていない２人は、ただ首を傾げるばかりである。
　そのまま２人は保健室で測定の手伝いを行うことに。
「あ、今日はお手伝いさせていただきます御巫です……。よろしくお願いします……」
　おっとりと彼女はそう挨拶をすることを欠かさない。

「クソ……！　あの肉塊が……、解体してやる……！」
　美しい白い髪が似合う、色素の足りない雪のような肌。
　薄紅色のミステリアスな瞳。
　形のいいバストとヒップ、引き締まった腰周り。
　全体的にスラリと引き締まった体つき。
　そんなモデル体型になっている新井 瞬平は、憤怒を抱きながら保健室へやってきた。
　つまり、殺る気満々である。
　ぶつかって性別反転してしまった恨みと、喧嘩に餓えた血の疼きに突き動かされる新井。
「みんな、その肉塊に迷惑してるんだろ……？　だったらさっさと挽肉にすればいいだろうが……」
　白い凶獣が、今や遅しと播磨の登場を待ち侘びていた……。

　志波 拓郎は高梨 彩葉にお姫様だっこのまま保健室へ到着。
　厳戒態勢にビビリながらも、保健室へ入った。
「すいませーん、鷲尾先生！　しばっちが足挫いちゃってー」
「……そろそろ、下ろ、して……」
　恥ずかしさのあまり、両手で顔を隠す拓郎。
「あら……、誰だったかしら？　似てる人がいたような……？　とにかく、湿布を貼らないとだわ……」
　男女反転に気が付かない鷲尾先生は困惑するばかり。
　そこへ、更に播磨の被害者が大勢雪崩込んでくる！
「うわーん、センセー！　助けてヨー！」
「鷲尾先生！　僕、急におっぱいがおっきくなっちゃったんです！　病気でしょうか！？」
　御薗井 Ｅ セレッソと千鳥 雅人が鷲尾先生のおっぱいに突撃、そのまま顔を埋めだした！
「せれっそ、オマタにおっきな虫刺されできたヨー！　今、スッゴクおっきくなってるヨー！　怖いヨー！」
　セレッソのスカートから、ナニカがニョキニョキと巨大化しているような……？
「僕、一生このままなんでしょうか？　そんなの嫌ですぅ……！」
　ぶるんぶるんっと千鳥の胸が縦横無尽に暴れまくる！
　やめてあげてよぉ！　この場にいる男子生徒の臨界点はもうとっくに超えているわ！
「せんせーい！　風邪引いた女の子連れてきたよー！　ベッド貸してくださーい」
「うわぁ……、俺を見るなぁ……！！」
　天馬 ひびきが芹沢 梨樹を抱えてやってきた。
　芹沢は人目が気になるのか、更に身を屈めて体を震わせてしまう。
　天馬は慌てて芹沢の背中を摩ってあげる。
「大丈夫？　すぐにベッドに寝かせないと大変っ！」
「ええと、ちょっと待って！？」
　妙な来訪者ばかりに、冷静沈着の鷲尾先生もタジタジである。
　極めつけは……。
「先生ー、相談しにきましたー」
「おじゃましまーすですよーぅ」
　男の娘と化した椿 美咲紀と、覇王と成り果てた不破 ふわりまでやってきた。
　保健室にいる全員が呆気にとられていた。
　だっておっぱいと馬並みと筋肉が同時存在しているんだもの。
　つまりカオスである。
「……おっぱい大きい男の子や、筋肉ムキムキの女の子もいるんだなぁ」
　保健委員ではないが、何故か手伝いに駆り出されていた夢宮 瑠奈は、何の疑いもなく納得していた。
　誰かこの子に説明してあげて！
「あの、トップとアンダー、測りましょうか？」
　挙句、千鳥に胸囲測定を勧めている夢宮だった。
「んー？　ユー、バストの形、崩れますヨ？」
　レイラ・トンプソンは千鳥に優しく微笑むと、懐からなんとブラジャーを取り出してみせた！
　生脱ぎである。
「私はノープロブレム！　こんなこともあろうかと、ヌーブラって便利なものをつけてますカラ！」
　想定していたのかよ……。
　その場の全員がまたもや総ツッコミを入れる。
「脱ぎたてですけど、ここで着用しますカ？」
「え、ええ？」
　だが、返事を待たずに、レイラはカーテン一枚を引いて千鳥を中に引き入れる。
　木漏れ日が作る影がカーテンに映し出される。
「付け方分かりますカ？」
　恥ずかしげに首を振る千鳥。
「オーケィ、レクチャーしてあげマス！」
　カーテン一枚越しから聞こえる衣擦れの音。
　影だけ映る幻想的かつ怪しげな世界。
　２人の乳房の輪郭が影で映し出され、男子生徒の大半が「ふぅ……」と息を漏らしながら脱落していった。
　仕方がないね、我慢できなかったんだね。

　と、そこへ闖入するは難波 辰だ！
「先生～　なんだか立ち眩みがするの～」
（今の俺は女子！　女の子同士が乳のさわりっこしたり今日の下着を自慢しあいっこするのはスキンシップの延長！）
　ってことで、セクハラしまくる！
　まずは鷲尾先生の胸を両手でキャッチ！
「あ、めまいが……」
　そう言ってカーテンの中にダイブ！
　レイラと千鳥に牙を向く！
　……かと思ったのだが。
「鷲尾先生は……、私が守りますよぉ～！」
　添木 牡丹のアイアンクローが間一髪、難波の顔面を捉えて離さない！
　ヤンデレ牡丹ちゃん、面目躍如！
　彼女の目は今や黒い感情に呑まれて澱んでるけど、やってる行動は非常にアグレッシブだ！
「鷲尾先生に群がる汚らしい■は、肉片残さず■んじゃえばいいんだぁ！」
「ぎゃあああああああああああああああああああああああ」
非常に形容し難い音とともに、難波の悲鳴が轟き渡る！
「ちょっと、添木さん！？　怪我人増やしちゃダメじゃない？」
「……はっ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
　大好きな鷲尾先生に叱られ、ボロボロ泣きながら謝る添木。いじめられっ子オーラ全開である。
　それでも、難波の頭は離さない！
「この変態が全部悪いんですぅー……。なかなか鷲尾先生に謝らないからぁ～」
「ご、めん、な、さい……」
　最期の気力を振り絞り、難波が鷲尾先生に謝罪。そのまま意識を失った。
「難波 辰、推定死亡！」
　そう叫びながらバーン！と開け放たれる扉に立っていたのは上穗木 千鶴だ。
「まぁ、午後には奇跡的に蘇生するから大丈夫だね。そんなことより、ぼくの胸がスッキリしたんだよ！」
　そう喜ぶ上穗木の発育が良すぎる胸が、綺麗さっぱり消え失せていたのだ。