シーサイドタウン二丁目『オカマバー・ネコ』｜リアクション

シーサイドタウン二丁目『オカマバー・ネコ』

●レッツ・ダンス

　二度目のショータイムが始まり、客席の照明が落とされる。
　流れる音楽は前回と同じように目が回るほど激しいダンスミュージック。
「いやんアタシ店員じゃないんだけどん！」
　気が付くと姉小路ネイサンが舞台上に引っ張られていた。
「でも楽しいから踊っちゃう！」
　見よう見まねで踊る彼女は本当に楽しそうで、獅子島市子も思わず頬を緩めるほどだ。
「どうした。酒注げ――てめえの性癖はお見通しだ」
　そんな中でも女王・ジェニー(ジニー・劉)と久保田美和の関係は変わらず「わ、わかったから！」と客の美和がこき使われる。
　美和をおちょくるのを完全に楽しんでいるジェニーと、お遊びとわかりながらもあたふたすることしか出来ない美和を横目に見ながら、市子はステージから遠ざかっていった。
「……あーもーめんどくさい」
　市子は、刹那頭を掻いて、ため息をつく。
　どうせだったら、自分もこの楽しい空間に浸っていたいのだが――目を覚まさせてやらなきゃいけないらしい。
(この手の店にゃー浮かばれねー霊が集まんだよな)
　特にオカマバーは癒されるっつーし。
　けれど彼らは誰にも気づかれず、ただ溜まっていく一方なのだ。
　見えてしまえば彼らを放置することもできず、市子はゆっくりと端っこに座るひとりに近づいていった。
「お客さんどーしたん」
「な、なんで……」
　まさか声をかけると思わなかったのだろう、存在感の希薄な彼はびくんと肩を震わせた。
「お客さん暗いし、顔」
　媚びない程度に微笑んで、市子は続ける。
「あたしに話してみなよ。……ね」
　素の、市子そのまんまの態度がよほど気持ちよかったらしい。霊は小さく頷いて未練を語る。
「――お話を聞いてくださってありがとうございました」
　流れる水のように霊は頭を下げた。もう未練はないというように晴れ晴れとした表情だった。
　けれどまだこの世から離れられない彼のために市子はマッチを擦る。
「……おつかれさん」
　ぼんやりと蛍のような火が灯り、霊の姿を焼いていく。
　そうして煙のように彼は天井へと昇っていった。
　ろっこん：前夜の篝火の力だった。
「……」
　その時誰かの視線を感じて市子は振り返ると静かな双眸がそこにはあった。
「あのヒト……！」
　市子は目を見開き、静止の後に彼女に駆け寄るのだった。