シーサイドタウン二丁目『オカマバー・ネコ』｜リアクション

シーサイドタウン二丁目『オカマバー・ネコ』

●華麗なるオネエ談話

「今日は店員もちょっと多くねぇか？」
　いつにもまして美人が多いねぇ。
　本田宗次は程よく回り始めた酔いに身を任せて「特にあそこの子なんて結構……結構……」と物色し始める。
　しかしすぐに夢心地から覚めてしまった。
「……ナルミちゃん、この酒強いんじゃねぇの？」
「そんなことないけど？」
「どーにもここにはいないはずの奴の顔見えちまってんだけど俺……何で劉の奴がここにいるんだ？」
「って、あらん？　宗次サンに劉クンじゃない！　あはん、アナタ達もコッチ側だったのねんウエルカアム！」
　宗次と同じ疑問を抱いた姉小路ネイサンは考えるまでもなく声をかける。
「今の俺はジニーじゃねえ　源氏名はジェニーだ」
　すると否定するつもりがジェニー(ジニー・劉)は肯定する羽目になりあっという間に白粉以上に顔が白くなる。
「もう投げキッスばら撒いちゃう。幸運の女神のキスキスキッス！」

「海開きの時はありがとうございます。楽しかったです」
　久保田美和と盛り上がる檜山立樹をネイサンは振り返る。楽しそうに話しているねん！　ネイサンは満足する。
「え、っと奥さん放っておいて、こんな時間まで大丈夫、なの？」
　海開きの際に生まれた誤解を引きずっている美和は、藪から棒にそんなことを言い出した。
「え？　既婚だなんてそんな、俺まだ二六ですよ」
「立樹クンどうしたのん？」
　楽しそうな空気を残しながらも、困った顔をし始めた立樹を見てすぐさまネイサンは助け舟を出した。
「店長どうやら勘違いされちゃってるみたいで……」
「成程ねん！」アタシに任せなさい、とネイサン。
「大丈夫ですよセンセ！　何たって立樹クンはアタシの大事なパートナーなんだからん！」
　どーんと胸を張って言うと、美和は口を鯉のようにパクパク動かした。
「って店長!?だめだって大事なとこ省略しちゃだめだって！」
「あらん？」
　なにか間違えちゃったかしらん。ネイサンが小首を傾げると、
「……オカマ」
　美和はポツンと漏らす。
　それでようやくなにが足りなかったのか理解する。
「い、いや！　誤解ですから！　俺は普通に女性が好きですから！……ってなに言わしてんですか！」
　今度は任せて、とネイサンは「アタシも含まれるのよねん」。
「店長もいいかげんにしてくださいよ……」
　ちょっと疲れたようすだが、やっぱりそれでもいい男はいい男だなと頷くネイサンであった。

　わいわい騒いでいる知り合い連中と、ひとりで顔を青くしたり赤くしたりを繰り返している美和を見比べてから、女王・ジェニーは覚悟を決めた。
「ふん！」
　そうして美和の隣にふんぞり返り、細い脚を豪快に組む。
「久保田とかゆー女教師」
「は、はい！」
　いきなり睨みつけられた美和は声をひっくり返して、ジェニーに向かい直った。
「男にモテねえ彼氏ができねえ？」
「な、なんでそれをっ」
「……見りゃ、わかるさ」
　美和ちゃん、涙目。
「このジェニーさんが男をオトすテク教えてやる」
「ほ、本当？　でも、ジェニーさんっておと――」
　言葉を遮り、ジェニーは目をかっ開く。
「押し倒しちまえ」
「お、押し!?」
「それでダメなら一服盛れ」
「一服!?」
「酒と一緒にキメると最高にキマるの紹介するぜ」
　耳にわざと息がかかるようにしながら、ジェニーは
「酔ってるんでしょ！」
「はは、まさか！」
　ジェニーの大笑いに引っ張られて、オネエたちのからかう笑い声が聞こえてくる。
　もちろん愛のあるからかい、という奴だ。
　ただ、やはり美和は涙を堪えるので精一杯で、ジェニーもちょっとやり過ぎたかもと思い直した。
「あんまりいじめないであげてくださいね」
　そのタイミングで美和の同僚の樋口弥生が来店し、これ幸いと美和は泣き縋る。
　やっぱりもっといじめてやろう。
　ジェニーは美和を抱き戻した。