ワケあり温泉宿へ一泊二日ご招待！｜リアクション

ワケあり温泉宿へ一泊二日ご招待！

　露天風呂。
「……こっち向いたら殺すわよ」
「誰もみねぇよ」
　誰が言い出したか、今度は全員で対応できるようにと混浴することになった。
　男性陣と女性陣、見事に真っ二つに分かれて湯船に浸かっている。
「今のボク達って傍から見るとすごくシュールなんだろうなぁ」
　新井の呑気な呟きに誰も答えることなく、ただ、静かな時間が流れていた。
「キャ！」
　と、突然月ヶ瀬の悲鳴。
　皆が咄嗟に身構える。
「あ、すみません。水滴が落ちてきたものだから驚いて」
　恥ずかしそうに答える月ヶ瀬に皆胸を撫で下ろす。
　そしてまた静まり返る。
『きねんしゃしんとろう』
　小山内の突然の提案。
「なんでだよ……」
　御剣のツッコミも気にせず、
『とれる？』
　小山内は塔尾に尋ねる。
「カメラはあるけど普通の記念写真なんて撮りたくないわ」
「幽霊のいたあの茂みをバックに撮れば心霊写真になるんじゃないかい？」
「オッケー。撮るわ」
　晴海に説得された塔尾が脱衣場にカメラを取りに戻る。
「えーっ、こんな格好で撮るの？」
　ブリジットが不満そうに声をあげるが、
「でも、こういうのってなんだか旅行！　って感じがしていいよね！」
「そうですね。せっかくだし撮ってもらいましょう。もちろん服を着てですが」
　椿と月ヶ瀬は乗り気だった。
「俺達に選択権はないのかよ……」
「あるわけないでしょ」
　御剣と新井の声が虚しく響く。

　それぞれが衣類を身につけると、露天風呂をバックに全員塔尾を見る。
「もっと寄らないと収まらないわよ」
　気だるい声でカメラを構えた塔尾が言う。
「お前は入らなくていいのか？」
　気付いた御剣が言うが、
「あたしはいいわ。心霊写真に自分が写るのイヤだし」
　塔尾はカメラを構えたまま平然と言ってのけた。
（こっちもイヤだ……）
　おそらくその場にいた何人かはそう思ったであろう。
「ほら、暗い顔してないで撮るわよ」
　それでもなんとか気を取り直してカメラを見る。
　シャッター音。
「あ……一人増えてる」
　そして塔尾の呟き。
　全員が恐る恐る後ろを振り返る。
　その奥、茂みの間に少女の霊が立っていた。
「出たな」
　全員が少女の反応をじっと待つ。
「ん？　お主は……」
「かえれ」
　夏神の言葉を遮るように少女は言うと、茂みの奥へと消えた。
「待つでござる！」
　男性陣は濡れることも気にせずに露天風呂を一直線に通り抜けてあとを追う。

　やがて女性陣も追いつく。
　だが、古びた木製の柵が行く手を遮る。
「こんな所に柵？」
　一同不思議に思いながら、通り抜けられる場所を見つけてそこから柵の中へと侵入する。
「勝手に入っちゃったけどいいのかな……」
　椿が八神の背中に隠れながら心配そうに呟く。
「まさか誰か住んでいるってわけじゃないだろ。こんな場所に」
　晴海が先陣を切って先を進む。
　他のメンバーもそのあとに続く。
　その先に朽ち果てた木造の平屋が姿を現す。
「廃屋か？　それにしてもでかいな」
「ねぇねぇ、これ見てよ！」
　叫んだ椿のもとへ駆け寄ると、そこには腐りかけた木の看板が落ちていた。
「ん……温泉宿憩藍？」
「憩藍の旧館だったのかな」
　結城が建物の周囲を見渡す。
　周囲は鬱蒼と茂った草木で囲まれており、もうずっと手入れされていない様子だった。
「あの少女ってもしかしてここで死んだとか？」
　椿の言葉に離れた場所で見ていた面々がさらに遠のく。
「何か写ってくれる期待を抱かせるわ」
　塔尾だけが元気に写真を撮り始めた。
　その横で夏神と碓氷が建物をじっと見つめる。
「碓氷殿。感じるでござるか？」
「ああ。確かにここからは強い念を感じるが、でもさっきのは……」
「確かめてみるしかないでござるな」
　夏神の言葉に顔をしかめる一行。
「おいおい、こんな崩れかけた建物の中に入るなんて危険だぜ」
「ああ。みんなはそこで待っていていいでござるよ」