ワケあり温泉宿へ一泊二日ご招待！｜リアクション

ワケあり温泉宿へ一泊二日ご招待！

　温泉旅館・憩藍（けいらん）。

　午後四時。
　旅館の前に七人の若者が立っていた。
　その古びた外観に呆然と見上げたまま動けない。
「ここってまだ温泉宿としては新しい方なんだろ？　それにしては……」
　寝子高生徒の八神修（やがみおさむ）が呟く。
「これ、もう旅館というより幽霊屋敷だよ～」
　その隣りでは椿美咲紀（つばきみさき）が。
「温泉なのだ！」
　同じく寝子高生徒の後木真央（うしろぎまお）が楽しそうに声をあげる。
　そんな後木の背後でじっと周囲を観察するように伺う結城正義（ゆうきまさよし）と彼の愛犬ホームズ。
（寂れてはいるけど特に怪しい部分はないね）
　その結城の背中を後ろから押したのはブリジット・アーチャー。
「正義！　さっさと旅館へ入りなさいよ」
「ちょっとブリジットさん押さないでよ。じっくり外観を見てみたいのに……」
「見る必要なんてないわよ。そうなんでしょ、すばる」
　ブリジットが振り返った先でメガネの位置を直す新井すばる（あらいすばる）。
「ネットや図書館で調べた限り、幽霊が現れそうな出来事は確認できなかったよ。もっとも現場を調べた人間の意見も聞きたいところだけどね」
　旅館の周囲を取り囲む茂みがもぞもぞと音を立てる。
　皆に緊張が走るなか、茂みから出てきたのは一人の男子。
「なんだ、如月か」
　八神がため息をつきながら構えを解く。
　仲間の如月庚（きさらぎこう）だった。
「で、何か見つかったかい？」
　如月は肩をすくめてみせた。

　そこへ、
「なんじゃ。さっきから騒々しい」
　旅館の中から出てきた老婆に目を向ける。
　老婆は全員を見渡すと、
「おぬしらは参加者か。ワシがこの旅館の女将マオじゃ」
　それぞれ対峙したまま誰も動かない。
　とても微妙な空気。
　しかし、
「同じ名前なのだ！」
　後木がマオの手を取り嬉しそうに握手する。
「……まぁよい。入れ」
　お互いに挨拶らしき挨拶もなく、ぎこちない雰囲気で旅館へ入ろうとする。
　ところがマオが立ち止まって振り返る。
「犬はダメじゃぞ」
「ええっ？　ホームズは誰にも迷惑かけたりしませんよ」
「仮にそうだとしても他の客から見ればただの犬じゃ」
　それ以上は語らずに旅館の中へ消えていくマオ。
「他に客なんているのかよ」
「庚ちゃん、声が大きいのだ」
「後木もな」
　如月と後木を先頭に皆が旅館へ入って行く中、結城はホームズに何やら語りかけてから中へと入った。

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