ワケあり温泉宿へ一泊二日ご招待！｜リアクション

ワケあり温泉宿へ一泊二日ご招待！

「ねぇ、華澄さん。一緒に温泉で見た幽霊は、一体どんなトリックを使ったのかしら？」
　他の面々も興味ありげに集まる。
「え……あれは私を疑ってみなさんがやった事ではないんですか？」
　華澄の言葉に一同固まる。
「いやいや、ボク達が見た幽霊は全部華澄さんの仕業でしょ？」
　新井も慌てて問いかける。
「みなさんの前で幽霊の格好をしたのは今回が初めてです！」
「やはりそうでござったか」
　夏神と碓氷が華澄へ歩み寄る。
「最初の二件は確かに霊気を感じたからね」
「ということは、まだ別に本物の霊がいるってことか？」
　八神が問う。
「間違いないでござる」
　それまで落ち着きを取り戻していた一同に再び緊張が走る。
　だが、
「どうでもええ」
　そんな空気を切り裂いたのはマオだった。
「こうして波人さんとの日々を思い出すことができたし、あの人の孫がワシのもとへ来てくれた。それだけで十分じゃ」
　マオがどこか優しげな口調で言うと、一同もそれ以上の追及はしなかった。
「じゃあタダで宿泊の条件は達成ってことでいいんだな？」
「如月さん」
　マオに確かな返事を求める如月と、その如月を止める月ヶ瀬。
「これだけはハッキリしておくべきだろ」
「わかっとるわい！　まったくいい気分を台無しに……？」
　参加者を見渡していたマオの視線が廃屋の入口で止まる。
　不思議に思って面々がそちらを見ると、そこには一人の青年が立っていた。
「あ、あれは……おじいちゃん？」
　華澄が呟く。
　マオは波人に歩み寄ろうとするが震えてその場から動けない。
　すると、その体から半透明の少女が飛び出した。
「あーっ！　幽霊さんなのだ！」
　それが露天風呂で見た少女だと皆すぐに気付く。
「ちょっと待ってよ。幽霊って……マオさんはこうして生きて……」
　混乱するブリジット。
「そう、マオ殿の若かりし日々の記憶が生んだ生霊でござる」
「私達が彼女を見て覚えた違和感はこれだったんだね」
　夏神と碓氷は互いに頷きながら様子を見守る。

　少女のマオと波人はじっと見つめ合う。
　そして少女はヒヨコタマゴを大事そうに波人に差し出した。
「はい」
　だが、波人は首を振るとそっと少女を抱きしめる。
　周囲をとても暖かく穏やかな空気が包み込む。
　次第に二人の姿は闇に溶け込むように消えていった。

「ありがとう」

　その場にいた皆が声を聞いた気がした。
　二人の姿が消えると、呆然としていたマオが正気に戻る。
「あれはワシが波人さんに提案したものじゃ」
「それを祖父が私に教えてくれたんですね」
　マオは波人の霊が立っていた場所へ進むと、その場で静かに手を合わせた。
　その様子を後ろから見守る華澄のもとに皆が歩み寄る。
「結局祖父がここに残してきた宝物って何だったんでしょうか」
　華澄の問いかけに誰も答えないでいると、
『あの二人はわかってるよ』
　小山内がスケッチブックに書いて伝える。
「ええ。私達にとって大事なのはこれで無料になるということだけです」
　月ヶ瀬の言葉にそれぞれ安堵の息を漏らした。
「それにしてもまさか生霊と幽霊と偽物を一度に見られるなんてね」
　新井はいつものようにちくわをくわえながらも、声はどこか高揚している。
「ま、解決したならいいや。いい加減眠くなってきたしな」
　大きくあくびをする御剣の袖を小山内が引っ張る。
「ん？」
『おんせんでしゃしん』
「またかよ。さっき撮ったじゃないか」
「今度は私にも写させて！　新聞部としてきっちり押さえておかないと」
「だったら僕は男装して写りたいな」
　こうして温泉旅館・憩藍の幽霊騒動は幕を閉じた。

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