ワケあり温泉宿へ一泊二日ご招待！｜リアクション

ワケあり温泉宿へ一泊二日ご招待！

　夏神が振り返って言うと同時、
「で、でで、でたぁ！」
　椿が建物の入り口を指差しながら大声をあげた。
　そこには先ほど見た少女の幽霊が立っていた。
「ほ、ほら、すばる！　囮！」
「ちょっと！　目の前にいるのに囮の意味ないよ！」
　慌てて新井の背を押すブリジット。
「結界結界！」
　そして地面に何かを描こうとする晴海。
　他のメンバーも警戒するが、
「慌てる必要はないでござるよ」
　夏神が何やら納得した様子で少女に歩み寄る。
「ほら、こっちに出ておいで」
　碓氷に促されて一歩前に出た少女が、頭のかつらを取ってみせる。
「華澄さん？」
　驚きの声があがる。
「一体なぜこんなことを……」
「冗談にしちゃ悪質だぜ」
　それぞれが非難していると、
「こんなところで何をしておる！」
　突如暗闇から響く怒声。
　明かりと共に現れたのはマオだった。
「ここは立ち入り禁止じゃ。さっさと戻ら……って、そこにおるのは華澄ではないか。お前まで何をしとる」
　さらにうつむく華澄。
「幽霊騒動の犯人は彼女だったんだよ」
「なんじゃと？」
　マオは少し驚いた様子で華澄へと歩み寄る。
　そしてその格好を見て眉をしかめる。
「なぜそんなバカな真似をした！」
　激怒するマオだが華澄は俯いたまま答えない。
「怒っちゃダメなのだ。これでも食べて落ち着くのだ」
　そんなマオに後木がタマゴを一つ手渡す。
「邪魔するでない！　こんなもの……む？」
　目とくちばしが描かれたそのタマゴを凝視する。
「これはヒヨコタマゴ。どうしてこれを……？」
「華澄さんが渡してくれたのだ」
「華澄が？　おぬしまさか……」
　俯いていた華澄が顔を上げる。
「私はこの旅館の主人だった波人（なみひと）の孫です」
「な、波人さんの？　でもどうして」
　驚きを隠せないマオ。
「祖父がかつてここで温泉宿をやっていた話は生前聞いていました。そしてここに宝物を残してきたことも。それが何だったのか知りたくてやって来たんです」
「ところが同じ場所に同じ名前の宿がオープンしていた。当然気になりますね」
「この廃屋が祖父の言っていた旅館跡である事はわかったんですが、すでにここは新しい憩藍の私有地になっていて勝手に入り込めなくなっていました。そこで仲居として働かせてもらうようにお願いしたんです」
「幽霊に扮して客を脅かしたのはここに近付けないため？」
「はい。純粋に祖父の思い出の場所を興味本位で荒らして欲しくなかったんです。けど、幽霊の噂が出ても女将さんだけは何度もここへ足を運んでいましたよね」
　マオは何も答えない。
「けど、若い男を連れ去るなんて噂はどうして？　いくらなんでもやりすぎだと思います」
　月ヶ瀬の非難の声に華澄は首を振る。
「その噂は今に始まったことじゃない」
　答えたのはマオだった。
「ここの経営が苦しくなった時、宿の主人だった波人さんらは夜逃げ同然にここから去った。それを当時の人間がおもしろおかしく噂したのが原因じゃ」
「知っていてなんで黙っていたんだ？　旅館の経営にまで影響出てるっていうのに」
「……ワシの勝手な感傷に過ぎん」
　御剣の疑問に、マオは自身に言い聞かせるように首を振って呟いた。
「女将さんはどうしてここへ来ていたんですか？」
「さぁのう」
　建物を見上げて力なく呟く。
「ただ、ここに来れば不思議と心が休まる。そんな気がしただけじゃ」
　華澄も並んで一緒に建物を見上げる。

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