ワケあり温泉宿へ一泊二日ご招待！｜リアクション

ワケあり温泉宿へ一泊二日ご招待！

　廊下を進み、やがて突き当りの部屋の前へとやって来る。。
「ほれ、おぬしらの部屋はこっちじゃ。こっちが男、こっちが女。すでにお仲間もきておるわ」
　案内された部屋は畳八畳間の小奇麗な部屋。
　中には先に到着した参加者達もいた。
「あとは好きにせい」
「ねぇ、マオさん。一ついいかしら？」
　去ろうとするマオに椿が声をかける。
「幽霊って本当に退治したいの？」
「どういうことじゃ？」
「せっかく可愛い女の子が出没してくれるなら、それを旅館の宣伝に使えばいいのよ」
　呆気に取られる周囲と、無言のまま椿を見つめるマオ。
「可愛ければそれもいいがのう。イッヒッヒ」
　マオの不気味な笑いに一同言葉が出ない。
「ところでお茶をもらいたいんだが？」
　そんな空気を気にしてか、先行組の御剣刀（みつるぎかたな）が尋ねる。
「そこにあるじゃろ。好きにせい」
　顎でテーブルの上の茶臼をさす。
　その横柄な態度にブリジットがムっとする。
「私達はあなたの旅館の幽霊退治に来てあげたのよ？　もう少しおもてなしの心があってもいいのでは？」
「だからその礼にタダで泊まらせてやるんでねえか。お前さんらは客じゃねぇ。そこをはき違えるでねぇぞ」
　それだけ言うとマオは部屋を出て行ってしまった。
『たいどわるい』
　御剣と共にいた小山内海（おさないうみ）が、マオのいた場所を指差し、スケッチブックに書いて伝える。
「まぁ確かに俺達は客じゃないからな。気にしてもしょうがないさ」
　御剣は気にした様子もなく全員分の茶の用意を始める。

　すると、部屋のふすまが静かに開き、仲居の格好をした若い女の子が頭を下げた。
　見た目だけだと高校生くらいにしか見えない。
「遅くなりまして申し訳ありません。お茶をお入れに参りました」
　丁寧に挨拶をすると、部屋の中へと入りお茶の用意を始める。
「へぇ。こんなに若い仲居さんもいるんだ」
「あなた名前はなんて言うの？」
「はい。佐藤華澄（さとうかすみ）といいます」
　華澄は緊張した様子で全員分のお茶を差し出す。
『佐藤さんは幽霊見た？』
　小山内が何の前触れもなく尋ねる。
「い、いえ、そういう噂があるのは知っていますがただの噂です」
「じゃあ、若い男を連れ去るっていう噂はどうなんだ？」
　八神が割って入る。
「それこそ噂ですよ。ほんとに人がいなくなったら大騒ぎじゃないですか」
　華澄は一笑すると、皆にお茶を差し出した。
「それでは御用がありましたら遠慮なくお呼び下さい」
　深々とお辞儀をすると華澄は部屋を出て行った。
　同時に入れ替わる形で一人の女子が入ってくる。
「お、みんなこっちにいたのか」
　寝子高二年生の晴海飛鳥（はるみあすか）だった。
　浴衣で包まれた全身からポカポカと湯気を立ち上らせている。
「参加者だというのはなんとなくわかるけど、いきなり温泉とは余裕だね」
「べつに温泉を楽しんできたわけじゃないさ。僕には色々と準備があるんだよ」
　新井の言葉にぷくっと頬を膨らませる晴海。
「あの……」
　そんな晴海の背後から女性の声。
　如月の眉が動く。
「おっと、女子部屋の方に一人来てたから連れてきたよ」
　晴海にうながされて、もう一人女子が部屋へと入って来る。
「月ヶ瀬朔夜（つきがせさくや）です。よろしく」
　月ヶ瀬は頭を下げると、当然のように如月の隣りへと座った。
「……こういうの信じないんじゃないのか」
　どこかぎこちない感じで月ヶ瀬に呟く如月。
「信じていませんよ。謎を解明するためにきたんです」
「そのわりには声震えてるぞ」
　おかしそうに笑う如月であったが、皆の視線が自分達に集中していることに気付くと、
「ゴホン。まぁアレだ。見知った顔もあるけど、まずは自己紹介でもしようぜ」
　似合わない咳払いなどをして皆に提案した。

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