７月の★ハッピーバースデー｜リアクション

７月の★ハッピーバースデー

◆
寮の自室、うだるような暑さの中で塔尾松生はぼーっとしていた。目の下には、いつもどおりのくまが浮かんでいる。
（もう少し頑張れば夏休みだよね。もう暑いなー……だるい）
常時睡眠不足の身体には、夏の暑さはひどくこたえるものだ。
こんな日は――
（ちょっとアイスでも買いに行こうかしら。……アイスソーダでも良いかも）
とにかく、冷たいものを食べに行きたい。
まだまだ夏はこれから、美味しいものを食べて元気を出さなければ。
のそのそと起き上がり、コンビニへ向かうことにした。

海浜公園へとやってきた松生。
時折吹き付ける海風が、夏の暑さにやられてしまった身体に心地良い。
ソーダアイスをかじれば、しゅわしゅわとした爽やかな炭酸が口の中で弾ける。美味しい。
日陰に空いているベンチを見つけ、これ幸いとばかりに腰をおろす。
「はー、ちょっと一息つけたかも」
いまいいち頭のはたらかないだるさも、大分すっきりしてきた。冷たいものって素晴らしい。
しかしそうなると、だるさに紛れて考えずに済んでいたことも顔を出すわけで――
「テストの事とか課題の事とか、面倒だけどやっておかないとなー……」
ゲーム雑誌を膝の上に広げつつ、ぼやく。幸せな夏休みを送るためには、どうしても必要なことだ。
数学はまだしも、英語なんかはやる気が起きない。
同じ英語でもゲーム用語は大丈夫なのに、授業で見るようなのはさっぱり。
（んー、不思議なもんよね……あ）
発売予定の新作ゲームを紹介するコーナーで、雑誌をめくる手が止まる。
「このゲーム面白そう……えーっと」
発売日はそろそろ。
「夏休み中にたっぷり出来そうじゃない」
なんとタイミングのいいことか。
「……ん」
ソーダアイスをかじろうとして、違和感。いつの間にか、全部食べてしまっていたようだ。
「もう食べ終わっちゃったかー」
もう一本欲しい気もするし、また買いに行こうかと思った松生だったが、
「あら？」
よく見てみると、棒の部分には「あたり」の三文字。
アイスの当たりを引いたのなんて、思えば初めてかもしれない。今日はついている。
早速交換に――と立ち上がった松生のポケットの中で、バイブ音。メールが来たようだ。
（……お母さんからだ）
何かあったのだろうかと本文を開くと。
『誕生日、おめでとう』
の文字。
「……そっか、今日だったっけ」
ぽつりと漏らした松生の表情は、いつもどおり眠たげで。
でも、少し幸せそうで。
「アイスと一緒に、ケーキでも買うかな」
その足取りは、いつもより少し軽やかだった。

このページにイラストを設定する