７月の★ハッピーバースデー｜リアクション

７月の★ハッピーバースデー

◆
――夜、日付が変わるほんの少し前。
綾辻綾花は日付が変わるその瞬間を待っていた。
携帯の液晶には、作成したメール。送信ボタンの数センチ上を、指が何度も行き来する。
七夜あおいへと誕生日おめでとうメールを送った。真っ先に、お祝いをしたかったから。
『あおいちゃん、お誕生日おめでとう！
　これからの一年が、あおいちゃんにとって良いものでありますように。

　夜の８時に迎えに行くね』

――というわけで、夜。
あおいを迎えに行ったその足で、そのまま近くの公園へと綾花は向かう。
夜の公園には昼間あれだけうるさいセミの鳴き声も、元気に遊んでいる子供の姿も無く、静かでほんの少し寂しげだ。
「綾花ちゃん、何するの？」
不思議そうな、あるいは楽しみそうな表情のあおいの言葉に、綾花は口の端を上げてくるりと彼女の方へ向き直る。
「これです！」
と綾花がみせたのは、手持ち花火の詰め合わせ。
「わ、花火！」
目を輝かせるあおいを見て、綾花は一段と笑みを深くして、
「あおいちゃん、お誕生日おめでとう！」
二人だけの、ささやかな花火パーティーの始まりだ。
「見てみて綾花ちゃん、これ凄いよ！」
手にした花火を、興奮した様子で指差すあおい。その間にも、火花の色が鮮やかに変化していく。いわゆる変色花火というやつだ。
「写真撮れるかな、これ？」
「むしろ動画で撮った方が、色の変化がわかっていいかもしれません」
変色花火の七変化――正確にはもっと――に興奮するあおいの姿を、動画モードで撮影。
はしゃいでいるあおいの姿と、変化していく火花の色はしっかりと動画に残された。
変色花火が消えたところで、綾花は思い出したように。
「そういえば、花火で文字とか絵とか描くのってありましたよね」
「カメラの前で花火振り回して撮るやつだっけ」
「そうそう、それです。あれって携帯でもできるんでしょうか？」
「……どうなんだろ？」
首を傾げるあおい。傾げすぎて上半身が全体的に斜めになっている。
「一回やってみます？」
「そうしよっか。今度は私が撮るよ」
燃え尽きてしまった変色花火をバケツに入れ、携帯のカメラを起動。綾花は新しい花火に点火して、迸る火花で星の形を描く。
――パシャッ。
「撮れました？」
「うーん、駄目だね……。できないのかな？」
「夜景モードとかあれば、それでできないでしょうか？」
「ちょっと待ってね……えーっと、あった！　次ちょっと簡単なので試そう！」
「簡単な……じゃあ、こんな感じでどうでしょう」
花火を持つ手をぐるぐると回し、綾花は円を描く。それを夜景モードに設定したカメラで、パシャリ。
「今度はどうですか？」
「ちゃんと映ってるよ！　ほら！」
綾花の周囲をぐるっと囲う火花の輪が、きっちりと写真に収められている。
「簡単なのなら、これでいけそうですね。次、あおいちゃんやってみます？」
「やるやる！」
ハート型、両手で丸、簡単な花火アートを代わる代わる描いていく。
気がつけば、ススキ花火はほとんどソレで使いきっていたのだった。
――花火のラストと言えば、手牡丹花火。またの名を、線香花火。ぱちぱちと静かに燃える火花を、二人しゃがんで見つめている。
「線香花火って、どうしてそう呼ぶか知ってます？」
視線は花火に向けたまま綾花が訊いてみると、あおいも視線は花火に向けたまま、
「うーん、知らないなあ。どうしてなの？」
「前に本で読んだんですけど――」
なんでも、初期の線香花火というのは葦や藁の中に火薬を入れたものだったそうで。
楽しみ方も、今とは違って斜め上に向けたり、火鉢や香炉に立てたりしていたらしい。
「それで、火鉢や香炉に立てた格好がお仏壇にお供えするお線香に似ていたから『線香花火』の名前がついたんですって」
いつの間にか話に聞き入っていたらしく、顔を上げていたあおいは感心したような声を上げるのだった。

花火で遊び終わった後、
「これ、プレゼントです」
綾花があおいに渡したのは、星が付いたリボンとブレスレットのセット。
ブレスレットには、あおいの名前入り。
「色んな店を回ったけど、これが一番あおいちゃんに似合いそうだなって思ったから」
あおいの誕生日に合わせて、星の入った物で探してみたと綾花。
「わ、きれー……ありがとう綾花ちゃん！」
星にも負けない笑顔を浮かべるあおい。その様子に、喜んでもらえてよかったと綾花。
綾花にとって、あおいはなんでも話せる大切な友達。だから――
「これからもよろしくね、あおいちゃん」
「こちらこそ、これからもよろしくね綾花ちゃん」
夜の公園に、笑顔の花が二つ咲いた。

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