砂掛谷埋蔵金伝説　～金とロマンと温泉と～｜リアクション

砂掛谷埋蔵金伝説　～金とロマンと温泉と～

「せんへしすぎのいぬいのおやま、か」
　砂掛谷から続く山道を行きながら、葵水姫は掘り出された紙の文面をつぶやいた。
「千経し杉の戌亥の山と解釈すれば……ここが中継点になるのは間違いないわ」
　広い空間へ出る。中央にそびえるのは、樹齢千年をゆうに越えるといわれる、千年杉。この場所は行き止まりになっていて、先の道を見つけることはできない。
「ここから北北東の山のなかってことになるけど。あまりにもぱっとしすぎてるわね。範囲もとてつもなく広いし。答えとしては不十分な気がするわ」
　周りをはばからず言い切ると、北北東の獣道へと向かう。
「でもまあ、たまには行き当たりばったりも面白いわよね」
　冷静な推理と考察にも関わらず、水姫はマイペース。痛恨のミスに気づかないまま、北北東を目指すのだった。

（乾っつったら北西だろ）
　杉の陰で休んでいた追分義一は心の中でツッコミを入れる。
（ああ、行っちゃったよ行っちゃった。いいよな別に、俺のせいじゃないよな）
　スキンヘッドに白タオルを巻きつけ、手には軍手、服装は学校ジャージ。スマートフォンにはコンパスが内臓。準備は万端だ。
　千年杉の北西方面に立つ。同じようにして何人かがここまで到達したのだろう。地面に踏み荒らされた形跡があった。
「おやまってあるけど、実際にはそんなでけえ山じゃないんだろうな」
　探すのに手間取るかもしれない、慎重に動かないと。そう思った矢先。
「埋蔵金が本当にあるかどうかは疑問だよね」
「おわっ」
　いつの間にか、すぐ横に佐藤英二が。
「誰かの仕込みのような気がするけど……楽しそうだ」
　佐藤は暗号を満足に解読したものの、埋蔵金に対しては疑いの念を拭えていない。
（英二、目立たないんだよな。見た目も地味すぎず派手すぎずで平凡だ……ん？）
　ザッ。新たに現れる影。
「たまには夢を見ても罰は当たらんじゃろう。掘削は任せて欲しいから、推理に乗っからせてくれんかのう」
　15歳とは見えない容貌の金堂睦月。
（今度はおっさんみたいな高校生来ちゃったよ）
　スキンヘッドメガネと、絵に描いたような平凡と、人生の下り坂にさしかかったような紳士。
　極端な3人の高校生が歩幅を合わせて北西を進む。
「埋蔵金が見つかって一部がもらえたら、恵まれない子供たちにランドセルを買っておくってあげたいものじゃ」
　まぶたの裏に子供たちの喜ぶ姿が見えるのか、睦月はしんみりうなずいている。
「立派な使い道だね」
　気を遣って、現実的な発言を控える佐藤。
「あなたは埋蔵金が見つかったらどうするんだ？」
　佐藤は義一に話を振る。
「ん、俺か。コンビニでよくやってる漫画とかアニメのくじ購入の資金にするつもりだぜ」
　真顔の義一。佐藤に言えることは「頑張れ」くらいしかない。
　その姿を紅一点の伊藤佳奈が見送っていた。

「ちょっと声がかけづらいメンツだなぁ」
　背負う大きな風呂敷包みには母のお手製弁当が入っている。和気あいあいと、ロマンと楽しい時間を共有したいが、勇気が要りそうだった。
「私の推理ではこの千年杉あたりに埋蔵金が埋まっているはずなんだけどなぁ」
　3人の行く先が気になったが、とりあえず杉の根元を掘ることにした。

上空では、一匹の美しい羽を持つ蝶が舞っていた。
（山道もなんのそのー！　百万両をゲットしますよー！）
　自然大好きっ子の屋敷野梢だ。
　ろっこん「胡蝶の夢」があれば山登りなど。すでに登りではない。荷物ごと蝶に纏うことができるので、これほど探索に適したスキルの持ち主も早々いないだろう。
（小山っぽいところまで飛んでいったら、捜索を始めまーす）
　そう決めた直後、前方を動くものに釘付けになる。
（！？　あんなところに変わった昆虫が！）
　昆虫好きの梢の血が騒いだ。
（えっとえっと、確かあれはー……って、ちょっと待って下さーい！）
　慌てて人間へと戻る。
「虫取り網、虫取り網……よーし、追いかけますよー！」
　埋蔵金のことはもう眼中にない。小山とは反対方向へと駆け出す梢だった。

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