奴隷戦線異常有り｜リアクション

奴隷戦線異常有り

●●●柔良く剛を制す●●●
　刀が連れてきたゴブリン達は刀が見えない速度で移動したため、ターゲットを近い者に変える。
　その相手は源一・琴代・蛇那伊の三人だ。

「あらあら、刀ちゃんも本気ね？」

　刀のろっこんを知る蛇那伊は何が起こったのかは把握していた。
　その混乱に乗じることも考えたが、急がば回れ。焦らずに当たることにした。

「ふぅー…」

　源一も息を吐き、向かってきたゴブリン達を相手取る。
　源一を攻撃範囲の中に捕らえたゴブリンは他のゴブリンとほぼ変わらぬ動きで棍棒を振り下ろす。

「……ッ」

　攻撃された間、反応速度を高めるろっこん「転」の効果もあり、タイミングを見切る。
　棍棒を躱しゴブリンの手を掴み、逆の手で股下に手を入れて持ち上げ、仰向けに叩きつける源一。

「……未熟」

　ゴブリンに柔術も何もないのだが、言う源一には風格があった。
　蛇那伊は地面にのびているゴブリンに対し、とどめとばかりに勢い良く頭を踏みつける。
　堅い物が砕ける音と、ゴブリンの口から出る液体のこぼれる音が耳に入ってくる。

「ちゃんととどめを刺さないと、後ろから刺されちゃうわよ？」

　ただでさえ筋肉のあるゴブリン達だ。人間以上にタフだと考えるのが妥当だろう。
　その言葉に納得をした源一は横薙ぎで棍棒を振るうゴブリンの棍棒を抱きつく。
　そして、振られるがまま棍棒に乗り、振り終わりの所でふんばり、ゴブリンを地面に叩きつける。

「……御免ッ」

　倒れさせたゴブリンに瓦割りの要領で首を殴打する。
　そのまま帰らぬゴブリンとなった。

「海パンにおっちゃん、強いね！　私も負けてられないよ！」

　狙われないことに痺れを切らしたのか、琴代が源一を狙っているゴブリンの足をすくうように蹴りをする。
　悲鳴に近い鳴き声を漏らし、膝をつくゴブリン。
　フツウの女子高生の蹴りでは到底なし得ないであろう威力であると分かる。

「あら、琴代ちゃんもやるじゃない」

　琴代の攻撃に賛辞を送る蛇那伊。
　そして、改めて状況の確認をし、戦況が薄くなっている所を発見する。

「…って、アタシ、ちょっと行ってくるわ」

　警戒を怠らず、前線で漏れたゴブリンを相手にするつもりだった蛇那伊だが、必要とあれば動く。
　そういう柔軟性も蛇那伊の力と言えよう。

「えっと…す、すみません。八神さんを助けてください！」

　左側からは真由良が到着し、助けを求めてきた。
　快諾はし辛い状況なのは変わらないが、源一・琴代は真由良の向かってきた方向に走り出す。
　しかし、戻ろうとした真由良に対し、汚い咆哮と共にゴブリンが攻撃を仕掛ける。

「あっ…」

　横薙ぎの攻撃は真由良を捕らえており、気迫に押されたのか、動けなくなってしまう。
　そこに真由良を護る様に琴代が割って入る。
　防御の型を取りつつ、攻撃を受ける。と同時に鈍い衝突音が鳴る。

「…はっ…ぁ…。だい、じょうぶ…？」

　何とか持ちこたえた琴代は言う事の聞かなくなった右腕を左手でゆっくり降ろす。
　当たったことを確認し、ゴブリンは棍棒を高く振り上げて次の攻撃をしようとする。

「……させん」

　棍棒を持たぬ手を取り、横転を狙いって自身の体重から腕を持っていく源一。
　足を上手くひっかける事ができ、振り上げた棍棒は真由良の脇の地面を叩きながらゴブリンは横転する。

「……二人とも、下がっていろ」

　不器用に言葉を放つが、彼なりの気遣いだ。
　真由良は頷き、琴代を支えながら戦線を離脱した。
　やっとの負傷者に安堵の声が流れるが、足りぬとばかりに騒ぐ観客。
　上ずった声でピエロも実況を続けていた。