奴隷戦線異常有り｜リアクション

奴隷戦線異常有り

●●●サイドの戦い●●●
「いきます…！」

　先手を取ったのは真由良だ。
　手に持ったボロボロの盾をブーメランを投げる要領でゴブリン達に投げつける。
　前列のゴブリンが振り落とすのも間に合わず、まともに食らってしまう。

「引きつけて、他のゴブリンの軸線上に逃げる。同士討ちを狙おう」

　持っていた問題集や参考書を服に詰め、簡易防具とした修。
　彼が提案することも、簡易防具とすることも、生き残るためだ。
　そして、できるだけ体力を使わず、大きなダメージを与える…そのタイミングを今ははかっているのだ。

「はい。うまく当たりましたし、大丈夫だと思います」
（喧嘩の基本は頭を潰す事だが…手が出せないならしかたない）

　女生徒の制服をたなびかせる真由良にはやんちゃな時代もあったようだ。
　ちらりと観客席のピエロを見る。

「アハハ！　いいネ！　実に弱者らしい戦いだヨ！　命の灯火をごらん遊ばセ！　ってねェ！」

　相変わらず不快な強弱を着けながら話すピエロに顔をゆがませる真由良。

「気にすることはない。高い所から物を言えるのは今のうちだからな」

　ゴブリン達に拾った石を投げつけつつ、強く言う修。
　タイミングを見て、修と真由良は中央側に向かう。
　しかし、引きつけすぎたのか、ピエロに気がいきすぎたのか、ゴブリン達と接近してしまう二人。

「このままだと、間に合いそうにないです…！」
（普通にヤバいんじゃないか？）

　もう少し下がれば源一・琴代に合流することができるのだが、それを許してくれなさそうな距離である。
　一度に数体を相手にするのは無謀だが、選択肢は一つしかないように見えた。

「…絹織。マントを使って注意を引く。その隙に武井達と合流をしろ」
「八神さん、でも…」
「大丈夫だ。そう簡単には死なないさ」

　修の目は本当を語っていると感じた真由良は息を止めて頷き、琴代達の元に走り出す。
　同時にいくつか抱えた石をゴブリンに投げ、移動方向を変える修。
　コロシアムの中心に行くように動き、ゴブリン達の接近を許す。

「無策、な訳がないだろう？」

　胸ポケットの太いペンを抜いて自らも接近する。
　ペンのキャップをはずすとスプレーの先端が出てきて、そのままゴブリンの顔に向かって噴射させる。
　かまわず突っ込んでくるゴブリンだったが、力無く棍棒を落とし、倒れ込んでしまう。
　その拍子に隣のゴブリンにぶつかり、怒りの声とともに同胞の体をたたきはじめた。

「護身用に持ってて良かった」

　そのペンはペン型の催涙スプレーであり、ゴブリンには思いのほか効果があったようだ。
　ゴブリン同士の殴り合いに発展するとは思っていなかったが、思わぬ収穫である。
　しかし、隣のゴブリン以外は変わらず修をターゲットに進んでくる。

「ストレイト・スマッシャー！」

　そのゴブリンは横から現れたザ・ストレイトに全力で顔を殴られ、気絶する。
　横に倒れるゴブリンの先には同胞を叩いていたゴブリンが居り、棍棒を持って行かれる。
　そのことに腹を立てたのか、今度は気絶したゴブリンを殴る始末。

「大丈夫か！　追いつめられるとは珍しいな！」
「来ると思っていたよ。しかし、助かった」

　中央のゴブリン達を引き付けていたザ・ストレイトが修のピンチを察知し、助けにきたのだ。
　事件や事故をともに乗り越えてきたザ・ストレイトならばそう動くだろうと修は予測していた。
　その行動は賭けに近いものであったが、修とザ・ストレイトは勝ったと言えよう。

「ゴブリン達は攻撃してくる相手も攻撃対象にするようだ」
「その様子だな！　先ほど目つぶしをしたゴブリンが仲間に殴られていた！」

　そう会話をしながら、源一達の元へ向かう。
　また、人間にゴブリンがやられた。観客は既に楽しむモードではなく、非難を口にするようになっていた。