むかしむかしあるところに　～お姫様の願い事～｜リアクション

むかしむかしあるところに　～お姫様の願い事～

　　【もう響かない声】

　「この国には海が無いから、皆の宝物を集めてきたんだっ！　貝殻この位あれば足りる？」

　「ああ、すまない。ありがとう」
　既に大人も子供も関係なくなっている酒場の一角で、咲州寄居子は子供達から貝殻を集めてもらっていた。
　彼のろっこん“鎧有為（がうな）”は、貝殻を耳に当てて『防具』を想像する事で、耳に当てた貝殻の大きさ、形状、硬度を発動時に寄居子が想像した『防具』に変化させる事が出来る。
　まだ、覚醒したばかりの能力で効果時間や硬度に不安は残るが、集めた装備の中から身体に合わないものを無理やり着るよりは遥かにましであろうと思われた。

　「そうだ、ついでに……お父さんやお母さんがフィナンの事どう言っているか聞いてもいいかい？」
　その言葉に、子供たちは一斉に静まり返った。
　「ん～っ、『そろそろお昼も危ないからお外出ちゃダメ』って言われてる……」
　ポツリと一人の少年の言葉を皮切りに、子供たちの思いは一気に爆発した。
　「俺のとうちゃん、仕事の帰りに──！　俺は絶対に大きくなったらフィナンを倒す騎士になるんだ！」
　「──おれの母ちゃん、一体何したって言うんだよぉ……」
　涙を落としながら子供たちが語る。
　全ての話を聞かなくとも、何が起こったのかが分かる悲劇。
　寄居子が本格的に泣き始めた子を宥めている間に、そこには人影が増えていた。

　「……その話、俺も聞かせてくれないか。街の人が狂騎士についてどう思っているのか知りたかったんだ」
　２階から、何かを思いつめた様子で御剣刀が降りて来る。
　「救世主様方！　どうか、どうか悪鬼フィナンを退治して下さい！　奴がいつ昼間に活動するか分からない。このままじゃ、この国は潰れます！」
　酒場の端っこで活動していた寄居子と、話を聞きに来た御剣刀の側には気がつけば大勢の人が集まっていた。

　連絡用に使用していた酒場のコルクボードにも、狂騎士狩りが行われると知った人達が集まっていた。
　そして仲間内用だけでなく、そこには数多の祈りと恐れと、身内が殺された人はその憎しみが書き連ねられた手紙が多数貼り付けられていた。
　そして常に仲間が集めたものと比較すれば、既に誰かが手に入れていた価値としては低い情報が寄せられ続けた。
　価値の低い情報──それですら、街の人にとっては藁をも縋る思いで書かれた物なのだろう。

　その願いを全て志波高久が情報処理として纏めていく。
　悲痛な願いと情報とを分ける行為は、とても胸が痛いものであったが、これも味方に被害を及ぼさない為、絶対に必要不可欠な行為でもあった。

　刀は、主にその嘆願の方を読んでいた。
　栄光に溢れた輝かしい皆の憧れであった騎士からの変貌。
　涙に濡れた文章。
　その合間にも、聞いて欲しいと語り掛けてくる瞳に涙を溜めた、娘を殺されたという老人。
　刀はその全てを受け止めた──無表情で。

　そして、新井米太郎からもたらされていた、魔女の呪いについて軽く目を通した後、刀は何も言うことなく、再び２階へと上がっていった。