睡魔と戦え！　リターンズ｜リアクション

睡魔と戦え！　リターンズ

【屋上：国語】

　気がつくと民谷鋭二は屋上のフェンス際に立っていた。
　眼下の校庭ではサンマさんらしき生き物たちがうようよ動き回っているのが見下ろせる。
　下界の騒がしさに比して、ここは実に穏やかだ。鋭二は神にでもなったような気分だった。

「と、ここで問題ね！」
　背後から突然の声。振り向けば、いつもは何もないはずの屋上に机が規則正しく置かれている。鋭二から見て左手の端に教壇、そこに国語担当久保田美和の姿があった。
「黄泉比良坂で醜女に追われたイザナギが最初に投げたものは何？」
「（古事記って試験範囲だったか？）簡単、カズラだな」
　イザナギは頭に飾りとして巻いていたツルを醜女に投げた。ツルからヤマブドウが成り、醜女がそれを食べている間にイザナギは逃げた。
「正解！　じゃ、実際に見てみよっか」
「ほう、どこにあるんだ？」
「すぐ後ろ！」
「後ろ？」
　後ろはフェンスがあってその先は……。
「！？」
　振り向いてすぐ、フェンスに絡み付くカズラの姿があった。
「っって！　これカズラはカズラでも、猫鳴館の巨大ウツボカズラじゃねぇか！？」
「そいつを倒すのが課題よ。じゃ、頑張ってね」

　というのが、数十分前の出来事であった。
　鋭二は今もなお、巨大ウツボカズラに追われている。どこまでも延々と続く廊下を走っている。窓の外は日が傾き、いつしか橙の空を見せている。
（前は撮影に夢中になってやられたが）
　デジカメを破壊された苦い過去を思い出し顔をしかめる。
（今度はそうはいかんぜ）
　追いかけてくるウツボカズラのツタが伸びてきた。攻撃は以前のものと変わらない。真横に跳んで、するりとツタをかわす。
（いつまでも逃げていてもしょうがない）
　ちょうどよく開いていた窓から外へと出た。北校舎沿いを走っていく。
（気分は本当にイザナギだ）
　ウツボカズラはツタ攻撃を止めない。
（しつこいやつめ）
　ちょうど通りかかった競歩中のサンマさんを捕まえる。
「うわ、なにしやがるんでい！」
　じたばたするサンマさんを持ち上げると
「これでも食って腹壊せ！」
　捕虫器へと投げ込んだ。ごくりと丸呑みする。
（少しは動きが鈍くなるはず。その間に作戦を練らないと……）
　と、目の前に落ちている洗剤道具一式に気づいた。どうやら２階の家庭科室から落ちて来たらしい。
（そういえば……やつの弱点は石けんと塩だったはず）
　石けんを拾うと、さらに大瓶が転がっているのも発見。なんと都合のいいことか。塩化ナトリウムが入っていた。これは実験室から降ってきたらしい。
「こいつらも食え！」
　手首のスナップを利かせて、捕虫器へ次々投げ込んだ。

　案の定、ウツボカズラの様子がおかしくなっていく。その間に鋭二は、家庭科室から包丁を持ち出していた。
「古事記にならうなら最後は桃で締めたいところだが。玉ねぎとかしかなかった」
　包丁を構えると、弱り始めたウツボカズラへと駆け出した。
「気分は草薙の剣を持ったヤマトタケルだな」
　八つくらいに頭の分かれたウツボカズラの茎を、一つずつ、切っていった。

　鋭二、対策を正しく打ち立て、ドロップ運にも助けられて課題クリア！

民谷鋭二
苦手：巨大ウツボカズラ　対決：巨大ウツボカズラを倒す
対決結果：勝ち　国語の点数がアップ！