睡魔と戦え！　リターンズ｜リアクション

睡魔と戦え！　リターンズ

【実験室：理科】

　実験室に、鼓膜を貫く轟音。

　コードか何かにつまずいた五十嵐先生、拍子に持っていた大瓶が飛んで、頑丈にできているはずの窓ガラスが弾けるように割れたのだ。

「尚輝先生、ここは私に任せて、コーヒーを飲みながら休憩なさっていてください……」
「いえ、大丈夫です」
　と言って立ち上がった拍子にビーカーに当たり、パリンと床に破片が広がる。これで何回目だろうか。
　御巫時子は五十嵐先生のことが心配で心配で、苦手な大きな音など全く耳に入っていなかった。

（たかが塩化ナトリウムが入った大瓶で窓ガラスが割れるわけがない。やはりこの世界は特異な場所、夢か何かか）
　冷静に状況分析する橘勇。手元のほうは捗っておらず、実験は上手くいっていなかった。

「どうですか、塩化ナトリウムの電気分解、順調ですか」
「全くもってワケが分かりません！」
　響タルトがきっぱりと言い放つ。先ほど黒板を使って説明されたが、妄想に耽っていたので全く理解が追いついていない。
「このままでは反省室行きですよ。急いでください」

「尚輝先生、終わりました……」
　時子が静かに手を挙げる。
「うん、正しくデータが出ていますね。発生した気体も間違いなく塩素です」
「ありがとうございます……」
　普段五十嵐先生の実験助手を率先してやっている時子にとっては朝飯前のことだ。苦手な音も勝手に克服でき、無事に課題はクリア。

「……？」
　勇が顔を上げたとき、すでに時子の姿は実験室から消えていた。
（やはり夢の世界のようだ……実験が成功すれば戻れるようだが、全く兆しは見えない。ここは試しに反乱を起こしてみるか……）
「五十嵐先生！　反省室ってどんなところなのですか！？」
　電気コードのワニ口クリップを手で遊びながらタルトが尋ねる。
「眠り放題」
「オヤツ食べ放題」
「ドリンク飲み放題」
　壁際で目下空気イス中のサンマさんが代わりに答えていく。
「マンガ読み放題」
「え！？　薄い本もあるの！？」
「（薄い本？）……たぶんあるんじゃね？」
「行く！　今すぐ行く！　実験どころじゃないわ！」
「オーケー案内するぜ」
　サンマさん一同、親指を立てると空気イスの姿勢を解き、全員でタルトを持ち上げた。
「じゃ、失礼します！」
　サンマさんに担がれながら、反省室へ向かうタルト。リタイアでフィニッシュです。

（１対１、今しかないな）
　勇、タルトをぼんやり見送っている五十嵐先生の背後に近づく。
（一瞬で決める）
「実験を途中で諦めるのはいただけませんね」
　くるりと翻る五十嵐先生、白衣のポケットから手を出すと、勇の眼前で空を切った。いや、正確には、隠し持っていたビーカーの破片が勇の頬を切っていた。

　が、勇のカウンターも決まっていた。実験で使ったアルコールランプが白衣の裾を燃やす。
「……」
　五十嵐先生の動きが止まる。白衣の素材が紙へと変質し、全体が炎に包まれていく。
「正しい使い方ができなくてすいません」
　五十嵐先生だった「もの」が、睡と額に書かれただけのボロ人形へと還元していった。
（もしこれが夢の世界じゃなかったらと思うと、ぞっとするな）
　ホッと息をつくと、サービス授業の真っ只中に目覚めるのだった。

御巫時子
対決結果：勝ち　数学の点数がアップ！

響タルト
対決結果：負け　理科の点数がダウン！

橘勇
対決結果：勝ち　理科の点数がアップ！