睡魔と戦え！　リターンズ｜リアクション

睡魔と戦え！　リターンズ

【第１グラウンド：体育】

　八神修の障害物競走は終わりが近づこうとしている。
（最近の体力づくりのおかげか）
　真夏の太陽の下でもバテずにここまで来れた。夢の中へ迷いこむ前に目眩で倒れたのをすっかり忘れている。
　依然、サンマさんたちが一緒に走り、修が障害を乗り越えるのを邪魔していた。

（……？　なんだ？）
　サンマさんたちの体に亀裂が入ったかと思うと、パーンと水しぶきのように分裂した。散った破片たちはミニサンマさんとなり、修へと飛びかかってくる。ミニサンマさんの尾ひれがベチベチと当たる。感触は悪い。
（ただでさえやっかいな障害だというのに）
　彼は校庭に敷かれたパネルの上にいた。色の違うパネルに乗るごとに、ある一定のリズムに従って回転していく仕掛けで、なかなかゴールへと到達できない。
「くっ」
　飛んで来たミニサンマさんをキャッチすると、別のミニサンマさんへと投擲してぶつけた。射撃部で研いだ集中力とコントロールが活かされている。

　そしてついに。ミニサンマさんの地味にうざい攻撃と、パネル解析の頭脳クイズを乗り越え修、障害物競走をクリア。

「さあ、生みの親の所へ案内してもらおうか」
　握ってゴールしたミニサンマさんに問いかける。

「このバカタコッ！　ミニサンマさんを離してやらんか！　ちょっと乾いてきてるぞ！」
　吉田先生の登場だ。彼も作られた世界の住人であることに修は気づいていた。この世界の主は一体どこにいるのだろう。
「もうお前は障害を乗り越えたんだ。いずれ目覚めることになる」
「現実世界で必ず暴いてやる」
「バカタコッ！　それより勉強、しっかりやれ！」
　修の姿は消え、現実世界へと戻っていった。

　トラックを周回し続け長距離走に挑戦していた塔ヶ崎璃亜の足がいよいよ止まってしまった。
「せっかく、ここまで来たのに……」
　限界はとうの昔に越えている。暑さと体力の限界で意識は朦朧としている。コースを逸れ木陰に入ると、そのままうつ伏せになって倒れていく。

　と、これを体で支える影が現れる。立井駒鳥。兄扮したサンマさんの追っ手からようやく逃れたところだった。

「大丈夫じゃろうか？」
　木の根元にそっと寄りかからせる。
「……あり……がと……ざいます」
　青の瞳が虚ろに空を見上げている。
「顔色が悪いぞ」
「熱い……」
「こんなになるまで……スパルタもいいところじゃ！」
　と、上着にくるんで持って来たアイスを思い出した。なぜかまだちっとも溶けていない。
「よかったらこれを」
　包装を解き、璃亜へ渡す。
「ありがとう……私、熱いのがすごく苦手で」
「俺は冷たいのが苦手じゃ……逆じゃのう」
「美味しいです」
　満面の笑顔でアイスを頬張る璃亜。
「元気が出てきました」
　そう言って立ち上がる。
「まだ休んでいたほうがいいんじゃ？」
「いえ、もう少しでゴールなので。本当に助かりました」
　まだ少し覚束ない足取りで長距離走を再びスタートする。
「頑張るんじゃぞ！」

（こんなに嬉しそうに食べる人がいるなんて……アイス恐るべしじゃ。いや、恐れるものではないかもしれん）
　持ってきていたもう一つのアイスを取り出した。
「……」
　青い直方体としばらくにらめっこ。表面が溶け、木棒を伝い液が駒鳥の指先につく。
（よし！）
　璃亜の美味しそうに食べる顔を思い出しながら、かぶりついた。
「……うん、アイスもなかなか悪くない……かな」
　冷やっこさで頭がキーンとなり、視界がキラキラ輝く感覚に襲われながらも、バリバリアイスを噛み砕いていく。
（まあでも……しばらくはまた食べたくないのう）
　課題をクリアし、駒鳥は現実へと戻っていった。

　3000m走り抜いた璃亜は、無言のまま地面へへたり込む。
「うむ、よく走り抜いた」
　吉田先生が讃える。笑い返すだけで、言葉にはならない。
　駒鳥の助けがなければ、ゴールは叶わなかっただろう。
　心の中で彼にもう一度感謝しながら、璃亜もまた現実へ帰っていくのだった。

八神修
対決結果：勝ち　体育の点数がアップ！

立井駒鳥
対決結果：勝ち　社会の点数がアップ！

塔ヶ崎璃亜
対決結果：勝ち　国語の点数がアップ！