睡魔と戦え！　リターンズ｜リアクション

睡魔と戦え！　リターンズ

【講堂？：音楽】

　ざわつきとポップなサウンドが弘明寺能美子の鼓膜をノックした。
「ここは……」
　退屈きわまりない物理の時間は終わっていた。なぜか彼女は講堂の舞台袖にいる。

　舞台の上に吊るされた幕には「寝子島ファッションショー」とある。舞台が始まるのを待つ観衆の中には、かつて能美子が関わったことのある、芸能関係の顔がいくつもあった。
（どういうことなの……私がモデルをやっていたことは、寝子島の皆には内緒のはず……）
　ここは夢だろうか。それとも、寝子島での時間が全て夢だったのだろうか。自分は現在もモデルのギャルをやっていて、今もまだ荒んだ心のまま、疲弊した日々を送っていたのではないだろうか。
（やだ……うそ……いや……）
　舞台袖で一歩二歩と後ずさる。長身の男にぶつかった。
「津止……先生？」
「さあ弘明寺、このサウンドにマッチした最高の笑顔と端正な歩き方で、観客たちを魅了してきてくれ。今の等身大の自分を見せつけることができたら君の勝ち。舞台に上がれなかったら君の負け、反省室行きだ」
　勝ち、負け？　一体何のことだろうか。一体自分は今何歳で、どこに所属していて……何者なのだろうか。
「北原、君も今のままの自分を見せつけに行くんだ。分かったな」
　津止先生の視線をたどると、弱々しい小動物のようにして肩を縮ませた北原みゆきがいた。
「わ、私無理です」
　声が震えている。
「人前に出るのが怖いんです……みんな離れちゃうから……最初はみんな、私の見た目が珍しいから興味を持ってくれるのに……私が何もできない子だって分かると、みんな離れちゃうからっ！」
　感情をむき出しにして、自分の姿が映る鏡に向かって叫んでいる。
「……どうして私だけみんなと違うの……」
　その場に崩れるみゆき。

　能美子は舞台を覗き見る。相変わらず、見知った連中が期待を馳せた顔で、モデルの登場を待っている。
「大丈夫？」
　みゆきの肩に手を置こうと近づいた、そのとき。能美子は鏡に映る自分の姿を見つけた。

　そこにいたのは、派手にデコレーションしたモデル時代の自分、ではなかった。
　髪は無理矢理染めた黒。服装は見慣れたいつもの制服。化粧は薄く、ソバカスはちっとも隠せていない。不機嫌な目でこちらを睨んでいるのは、間違いなく、寝子島で生きている能美子だった。
　同時によみがえってくる、寝子島での時間。最初は退屈だと思っていたが、新しい出会いや体験があり、楽しい仲間たちと、充実した高校生活を送れている。新しい自分を見つけていく毎日。

　そう、そうだ。
　過去の人たちに見せにいかないと。今の私自身を。
　今の自分がとても好きであることを、伝えにいかないと。

「大丈夫」
　能美子は鏡に映る自分とみゆきに向かって言った。
「私は私よ。それでいいじゃない。この目つきが悪いソバカスが、私なの」
「私は私……」
　俯いた顔を上げるみゆき。金髪、緑の目、真っ白い肌。それが私、北原みゆきだ。
「見せつけに行きましょう、私たちの姿を」
「うん……！」
　能美子に手を引かれ、みゆきは舞台へと歩きだす。

　わき上がる拍手と声援にも臆せず、自分たちを見せつけにステージへと上がる。
　２人だけのファッションショーは始まった。

北原みゆき
対決結果：勝ち　数学の点数がアップ！

弘明寺能美子
苦手：過去　対決：過去の人たちに、今の自分を見せつける
対決結果：勝ち　理科の点数がアップ！