捨てられた楽園｜リアクション

捨てられた楽園

「まあ、あれだ。いただきます」
　真理の声に続いて全員が、いただきます、と声を合わせた。
「このおにぎり、塩加減が最高だな」
　ラッセルの言葉に、それは良かった、と対面の刀がほっとした表情を浮かべた。
『ホントにおいしいよ。かたなくんはりょうりがじょうずだね』
　隣に座っていた海が笑顔でスケッチブックを見せた。急に思い出したかのようにトートバッグから猫の缶詰を取り出した。プルタブを引っ張って蓋を開け、用意された紙皿に中身を出した。
『かわいいネコさん、わたしのもたべていいよ。かわりではないけど、あとでスケッチしてもいい？　かんせいしたらあげるから』
　海のスケッチブックの内容に猫は関心を示さなかった。言葉は喋れても文字は読めないのかもしれない。
「俺の隣にいる小山内が、あとでかわいい猫の絵を描きたいと言っている。協力してくれた猫には絵をくれるそうだ」
「ラブリーなワシの出番やな」
　不機嫌な面構えの白猫が腹を揺すってやってきて、皿の中身をあっという間に平らげた。
「ラブリーなワシを、スーパーラブリーに描いてもええねんで」
　白猫の物言いに海は戸惑いながらも笑顔を作った。
「ここもそうだが、寝子島には荒れた神社が多い。補修すれば見違えると思うのだが、肝心の祀られる神々がアレだしな」
　月詠は滑らかな口調で語る。紙コップに注がれた甘酒は、二杯目がすでに空になっていた。
「この神社は妖怪の溜まり場のようだ。まあ、猫の妖怪だって八百万の神だし、実際に祀られている。二ッ岩大明神が有名だな。だから、ここにいる猫が神社に祀られていても不思議ではない」
　君とか、と月詠は白猫を指差した。焼き魚を食べる黒猫にも同じように言った。
「猫又は有名な妖怪だね。お仲間には神通力を持った仙狸がいる。何千年も生きた猫又が大暴れして退治されたという話は、猫又稲荷神社だったかな」
「詳しいな」
　真理の一言に、どうも、と月詠はカクンと頭を下げた。近くのスケッチブックに目が留まって引き寄せた。
　月詠は猫達の絵を描き始めた。丸っこい形で愛らしく加工されていった。
「うまいうまい、こんな量のごちそうは初めて」
　底なしの胃袋で三毛猫は秋刀魚を食べていく。その様子を円の肩から見ていた子猫が、にゃ～、と鳴いた。
「別にすごくない。おなかが空いてるから食べる。それだけ」
「え、もしかしてにゃーくんの言葉がわかるの？」
　三毛猫は黙々と食べる。そこに黒い頭巾を被った虎猫が悠々とした歩みで近づき、猫だから、と短く言った。
「それってすごいー。ねえ、他には何を言ってるのかな。教えてよー、お願い！」
　手を合わせて拝む円に虎猫は頭を押し付けるような動きをした。
「あ、ああー、その黒くてツヤツヤした頭巾、とっても似合っていておしゃれだね」
　虎猫は頭の角度を変えて際限なく見せつける。円は言葉を駆使して褒めちぎった。
　それ以降、猫達の様子が拍車を掛けておかしくなった。舌足らずな喋り方になり、斜めにふらふらと歩いた。聞き取る能力は落ちて意味の通らない言葉を返した。
「マタタビの効果に似てるのだ」
　つぶさに見ていた真央の言葉に刀が、そうか、と声を出した。
「原因は俺だ。焼き魚にマタタビの粉を振り掛けた」
　時間と共に騒乱の度合いは増していった。

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