●我々の業界ではご褒美です●

「ふぇ〜〜ん！　みっ、見てなさいよ！？
　必ず元の世界に戻って、テオに文句言ってやるんだからああああああぁ！」


　その串田 美弥子の叫び声に続いて、こんな悲鳴がビーチの青空に響き渡った。
「こっ、困ります……お客様！　そんな格好で、店内に入って来られてはっっ」
　いきなり何だ、とお思いでしょうが、ええと……まあ、この姿から見てもらった方が、話は早いかも？





着衣の残り枚数＝ＡＣ１【ブーツ／コート】


　この袋とじの世界に放り出された時点でブーツも消え失せ、忍足 春──いきなりのコート１枚での登場だ！
「キャーーーーーーーー！！？」
　慌てふためく美弥子たちの悲鳴に、余計にその肌をピンク色に上気させ、
「私の恥ずかしい姿を見てもらおうと、コンビニまで来てみれば……
　ああっ。なんて魅惑的な事件に巻き込まれたのでしょうか！」
　そして、ファサ……！　とコートの前を開いて、
「ハァハァ……皆さん、どうか私の痴肢体を見てくださいぃ……」
「だっ、ダメですってば、お客様！　通報しますよ！」
　その春にしがみついて、オロオロしているコンビニ制服の店員は、塔ヶ崎 璃亜だ。例のコンビニでたまたまバイトをしていた、この薄幸娘。全裸コートで入店してきた春と揉み合っているうちに、いっしょに事件に巻き込まれてしまったらしい。ああ、何という不幸体質。
「ううぅん……もっと私を口汚く罵って下さい、蔑みの目で見て下さい！
　春は見られて、罵られて、叩かれて興奮するスケベな子ですぅ……（ハァハァ）」
「ちょっ、ヤケになっちゃダメだよぅ！　いや、分かるけど！
　いきなり変な世界に連れて来られて、動揺する気持ちは分かるけど！」
　ドン引きの美弥子といっしょにコートをつかんで、今日は着物姿の御巫 時子も、
「そうです、いけません、春さん……（目の遣り場に困り）
　その……裸は好きな人だけに見せるものですから……（ぽっ///」
　こっちはこっちで、何だかちょっとズレたことを言っている始末。いや、うん、２人とも……彼女は元々、こういう子なんだよ……（目逸らし）
「ああっ、そんなふうに目を逸らされ、見なかったことにされるのもまた、ご褒美です！
　汚いものだ、臭いものだと無視されても興奮します！
　私はそんな、最低で気持ちの悪い女なんですぅ……（コートはらり）」
　おいちょっと誰か、何とかしてくれ！？


「待ちたまえ、そこのレディ！」
　ファサ……！　危機一髪、そのはだけた肩に、優しくジャケットを被せたのは、そう！　寝子島高校の誰もが認める自称イケメン紳士（※「認める」は「自称」に掛かります）、八十八旗 信彦その人だッ！





ＡＣ５【ネクタイ・ジャケット／ワイシャツ・スラックス・（SECRET!!）・靴下・革靴】


「えっ……？」
　自分の全裸を救ってくれた、そのスーパー紳士の登場に、ハッとうるんだ瞳を上げる忍足 春だ。
「やあやあ、危ないところだったね！　なーに、感謝には及ばないよ。
　紳士たる者、レディのピンチを救うのは当然の責務さ！（爽）
　Σ って、ちょっと何やってるのさ！？」
　ガビーーンってなる八十八旗の前で、そのジャケットを脱ぎ捨て、惜しげもなく海にポイしちゃう春！　慌てて八十八旗が次に差し出したワイシャツも、ビリビリと破り捨て、
「私のような！　私のような最低女に、こんな高価そうな服……勿体ありません！」
「ちょっ、えーーーーーーーーー！？」
　そして衣服を無駄に消費してしまった八十八旗 信彦、こちらも上半身ハダカで、いきなりの残りＡＣ４だ！
「み、皆さん……こんなド変態の私を、どうかいじめてください……（ハァハァ）」


「ミス・マゾッホ！？」
　さあそこに、また新たな変態が現れたから大変だ。ヤシ林の方から全力で走ってきたのは、春とは『桃色破廉恥小隊』で同士の、横嶋 下心だ！
「コンビニでエッチな本を買うつもりだったのに、いつの間にか知らない島に居たよ！」
　いちおう解説しておくと、この横嶋は『ひと』なので、テオの話が聞こえなかったのだ。
「でも、それは些細な問題！　こんな所でミス・マゾッホに会えるとは！
　相変わらずセクシーだね！　俺の股間が危なくなっちゃうよ！
　あっ、もう既にエッチなお姉さんのボディ効果で、危ない状態だったけど！」
「おねえ、……さん？」
　我関せずと、人の輪から離れていた大天使 天吏が、そこで小首を傾げて、横嶋に問うた。
「そうさ！　ヤシ林の中に、セクシーなお姉さんが居たんだよ！
　おっぱいとかお尻とか太ももとかがむき出しで、
　それをマフラーだけで隠しているんだ！　凄いよね？　凄いよね！」
　あれっ？とそこでキョロキョロと、浜辺を見回す横嶋だ。
「こっちに来なかった？　エッチな事をお願いしようと、
　全力でここまで、追っかけてきたのに！」


　アホー　　アホー


　聞き覚えのあるその鳴き声に、ハッとそこで桜庭 円と御剣 刀と八神 修が振り向けば、
「「クローネ！？」」
　忍足 春の頭上で、悠々と羽根繕いをしている、カラスが１羽。
『あはん、出戻ってきちゃったわ〜。だってだってぇ〜、
　このコのろっこん、ちょっと面白いんだものぉ〜？』
「クローネさん！　クローネさんだ！
　まあ素敵！　一緒に遊びましょう！」
　どこか上の空だった、先ほどまでの態度とは打って変わって、大天使 天吏が子供のようにはしゃいで、そのカラスに駆け寄ろうとする。
（！？　まずい……ッ！）
　その天吏を押しのけ、いち早く走り出したのは、桜庭 円だった。カラス化による奇襲とろっこん暴走も警戒していたこの円。しかし咄嗟のことでそれを防ぐ手段を思い付かず、その逡巡の間に、カラスは宙に舞い上がっていた。最後に、春の頭を翼でひと撫でして──
　そして春のろっこん【毛皮を脱いだヴィーナス】が、クローネによって暴走させられる。


　上気した肌が　カッチンと固まり　忍足春が　全裸ポーズの　彫像となった！


「おっぱい！（反射的に）　Σ ああっミス・マゾッホが、それはそれは大変なことに！？
　よ〜し、ここはＰＥＣ隊長であるこの俺が助けるよ！　仲間を守るのは当然さ！（爽）
　でもその前に、ちょっとそのおっぱい揉ませて下さい！　ヒャッホイ！」
　両手を合わせてダイブを敢行した横嶋 下心が、ゴイ〜〜ンとその硬い胸に頭をぶつけて、
「ミギャーーーーーーー！？（気絶）」
『あはははは、面白ぉ〜い。ど〜ぉ？
　ちょっと硬化能力をいじって、遊んでみたのぉ〜。
　脱げば脱ぐほど硬くなるなんて、いじり甲斐のあるろっこんよねぇ〜』
「ああっ、何ということでしょう。
　関節の皮膚まで固まり、指先１本、動かせません。
　こんな……こんな恥ずかしいポーズで……！」
「ぐっ……ひどい、むごすぎる」
「ちくしょう！　ゆるさんぞ、クローネ！（地面を殴り付け）」
　八神 修と御剣 刀の２人が、女性へのあまりの仕打ちに激昂するが、その頭上で旋回しながらクローネが、
『あ〜ら、なに怒ってるのぉ〜？　そのコだって、とっても嬉しそうなのにぃ〜』
「ああっ、こんないやらしいポーズのまま、身動きひとつ出来ずに……
　沢山の方々から、奇異の目で見ていただけるなんて……
　何というご褒美……ご褒美なんでしょう！（ビビクン）」


　…………。ええっとぉ、


「アッ待って下さい、どこに行かれるのですか、皆さん！？
　もっと私を見て！　罵って！　蔑んで！　いじめて下さいませ！　
　私を置いて行かないでぇ……アアッですが、無視されるのもまた興奮しますね！！」