窓村センセイのはた迷惑な好奇心｜リアクション

窓村センセイのはた迷惑な好奇心

●面接18:00～（その１）

　参道商店街の魚屋『魚新』の長男・新井すばると生物部仲間の神野美野梨は、魚新のＰＲ用巨大着ぐるみ『ちくわ君』と共に、窓村宅を訪れた。
　情報源は、すばるが偶然すれ違ったというシカらしい……シダ美穂戸の事、だろうか？
　サオラだと怒られそうなので、詳しい追求はやめるとして。

「何だ、そいつをどうしようって言うんだ？」
　これには変人・窓村もきょとんとした。
「あの、私にも研究を手伝わせていただけませんか？」
　ちくわの影に隠れつつも、美野梨の頬は上気する。
「治験は医学の発展に役立つし、興味深いです……実は私も、実験してみたい事があるんです」
　美野梨は研究に打ち込む窓村への理解を示しつつ、提案を切り出すタイミングを計っている。
　窓村はと言えば、どうしても巨大なちくわ君が気になるようで、美野梨よりも着ぐるみと、それを抱えたすばるを交互に見比べていたが。
「やあ、このボクが神野さんに依頼して、改良してもらった潜水用ちくわ着ぐるみが、気になるようだね？」
　待ってましたとばかりに、すばるが進み出る。
「潜水用？」
「はい。この潜水用ちくわスーツは、従来の水中で自由に動ける推進力に加えて、深海の水圧に負けない強度を実現させました！　深海は光が届かないので、ライトもあります」
　目を輝かせて主張する美野梨。確かに、スクリューが取り付けられているが。
「私達、小さくなって、体内に入ることが出来ないかなと思ってるんです」
「カメラとマイクをとりつけて、神野さんを、いざファンタスティックな旅へご案内ってね★」
　すばるがキザなポーズを取り、美野梨ははたと彼を見上げる。
「え、私が行くんですか？　ちくわ君なのに」
　ちくわ君の中の人が、すばるなのは公然の秘密である。
「だって神野さん、気になるでしょ？　研究したのも神野さんだし、名誉あるトップバッターはレディに譲らなきゃね」
「……そうね。実験のためだし、どうせなら自分の目で観察したいわ……」
　自分に全幅の信頼を置いてくれるすばるに、美野梨も覚悟を決めた。
「というわけで、窓村先生。私がちくわスーツを着ますので、ミニマム化した私を先生のお口から入れて、体内をを探検させていただけませんか？　体のどこから脱出する事になるのかとか、不安もありますが……研究者だし、もしもの時も許してくださいますよね？」
　ぐぐっと詰め寄る美野梨を、窓村はまじまじと見つめた。

　そして、大爆笑した。

「アハハハハ！　実に愉快だ、きみ達は。面白いよ！」
「せ、先生？」
「いや、先生はやめてくれ。だが、そうだな……研究者の先輩として、２，３忠告をさせてもらおう」
　骨の形も露な指で、窓村はちくわ君を指差す。
「深海用と言ったな？　どの程度を想定しているのかは知らないが、水中は１０Ｍで１気圧、それに海上の１気圧を加えた圧力が発生する。深海で耐えられる強度があるようには見えんよそれは。中に人が入るんだろ？」
「あ、うん！　着ぐるみだからね」
　ちくわ君をコツコツと叩く窓村に、すばるが慌てて頷く。
「まだ当分は改良を重ねる事をお勧めするよ。第一、呼吸はどうするんだ？」
「あー、せんせ……もとい、窓村さん。今回、とりあえずボクらは深海じゃなくて、人体を」
「その必要はない」
　窓村は言い切った。
「ぼくが知りたいのは小さくなった人間の事であって、さっき食べた煮物で一杯の、ぼくの胃の中じゃない。そもそも、それを調べたければ内視鏡で十分だろ？」
「確かに……」
「スーツの性能を確かめるなら、まずプールや海で調べるといい。悪いが、ぼくはきみの共同研究者にはなれないよ。だが」
　窓村は美野梨に、握手を求めた。
「いつか興味が同じ方向に向いたら、その時は是非とも互いを鼓舞しあおう」

「窓村先生の研究の方向性が、私達と違ってた……盲点だったわ」
　とぼとぼ歩く美野梨の後に、ちくわ君を背負ったすばるが続く。
「新井くん、そのスーツもう一度預からせて貰えるかしら？　もっと改良の余地があるわ」
「うん。ありがとう。何か困り事があったら、いつでも言って。ボクもこのウルトラエクセレンス練り物コンピューターで、サポートするからさ★」
　ウィンクするすばるに、美野梨もほんのりと微笑み返す。
「そうね、今日は失敗しちゃったけど……」
　二人は帰り際の、窓村の言葉を思い出していた。

「もしスーツが実用に耐えるようになって、きみの研究に、ぼくの力が必要な局面があったら、いつでも声を掛けてくれたまえ」

「次への、いい目標が出来たわ」

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