窓村センセイのはた迷惑な好奇心｜リアクション

窓村センセイのはた迷惑な好奇心

●面接16:00～（その２）

「待たせてすまないね、長引いてしまった」
「いえいえ、お構いなく。あ、これつまらないものですが」
　茶菓子持参で訪ねて来た刻人・F・ミセリアは、いかにも学生といった風情だ。

「いつもは文系の講座にしか出てないんですけど、先生僕の顔知ってますかね」
「刻人君、ぼくを先生と言うのは……」
「ああ、そうでした。うっかりしてまして、すみません」
（つまらない事に拘る男だな……）
　表面的には笑顔で応対しながら、刻人は窓村をつぶさに観察する。
　この時間まで待った結果、僅かながら窓村の怪しい力の噂が、耳に入っていた。

　やや興奮気味に実験の説明をする窓村に、刻人の笑みは僅かに酷薄なものに変わる。

　――例の、この島特有の不思議な力か

「はあ。それはまるで手品か、映画みたいですね。ええ、僕でよろしければオペレーションに付き合います」
（まあ退屈しのぎに付き合ってあげてもいい、か……それにしても）
　刻人は台所で立ち働く、御巫時子に目を向けた。
（やりにくいな）

　ここまでくると慣れもあるのか、窓村は早速実験を開始した。
　掌サイズにまで縮んだ刻人に、何度も頷く窓村だが、頭を押さえている。
「大丈夫ですか？　というか、ソレ、やかんじゃなきゃ駄目なんですかね？」
「それもそうだ、きみはいい所に目をつけたね！　他のものでもいけるかどうか、試してみよう」
「……ついでに、後頭部以外も試してみてはいかがです？」
　ちょっと含みのある言い方だったかな？　とも思ったが、窓村は気にした風もない。
　むしろ喜ぶ変人に、刻人の加虐心はそそられた。

　刻人は窓村の研究に、協力的だった。
　尤も、脱衣は時子が居るのを理由に「妻が嫉妬しますから」と小声で断り、本質は窓村の思考を誘導して、自分の好奇心を満たす事にあった。
（自滅するタイプだな……頭のネジが２，３本飛んでるって感じだ）

「いやあ、疲れましたけど、今日は楽しかったですよ」
　帰り際。刻人の言葉は、恐らく半分くらい本音だった。
「ところで……」
　刻人は窓村に近づくと、耳を寄せるよう手招いた。
「もし二人以上縮んだ男女がいて、縮んでいる間に妊娠したら、おなかの子はどうなるんですかね？」
　つい、素を出した。
　窓村は興味津々で、視線は刻人の左手薬指の指輪に注がれる。その顔を見て刻人も我に返る。
「……あ、今の妻には内緒ですよ。怒られちゃいます。それじゃあ、窓村さん、また」

　背中を向けて、立ち去りながら刻人は、小さく唇を歪めた。
　今は学生の仕事中だから、そういうのはしない。
「この島での僕は、愛妻家。うっかりしてたよ……ふふ」

「菜園さん、氷嚢作ったので……これで瘤を冷やしてください……」
　二人だけになった、部屋。
　痛む頭を押さえる窓村に、時子はそっと氷嚢を手渡す。
「ああ、気が利くね」
「どういたしまして……」
　台所の鍋には、にこりと微笑む彼女の、手製の煮物が完成している。

「くれぐれも、ご無理をなさいませんように……食事は大切ですよ？」
　いつも、好きな人に言っている言葉で念を押して、時子は窓村宅を後にした。
「ありがとう」
　見送った窓村は、煮物を菜箸で拾い上げて、じっくり観察した。
　気付いた時には、煮物はすっかり胃袋に消えてしまっていた。