Geheime Maske｜リアクション

Geheime Maske

　何故だか知らないが、大荒郎は車に乗っていた。ただ焼き芋が食べたかっただけなのに、恩に連行されて乗せられたのは黒塗りの車。気分は売られていく子牛だったが、よく見れば周りは見知った顔ばかりで、焼き芋パーティーへの期待が膨らむ。どこへ行くのかは知らないが、焼き芋さえ食べられれば良いのだ。
「さっきから気になってたんだけど、ピエロの持ってるそれって何？」
　不意に王輝に話しかけられ、大荒郎は自身の膝の上の鞄を見た。開いたチャックからは零れんばかりに学校に似つかわしくない物が顔を覗かせている。
「コレは趣味のものでデスネー、自分で着ても良し、他人に着せても良し！　の女性服だ。もし良かったら一緒にコレ着て記念写真でも？」
「い、いや……遠慮しておくよ。第一、ピエロが着るような服じゃ僕には大きすぎるし」
「ノープロブレム！　ロベッタやオフィーリアみたいなちんまい子用の服もちゃーんと用意して……」
「僕もオフィーリアも言うほどちっちゃくないだろー！？」
「ロベルトはともかく、俺はそんな小さくねーだろ！？」
　大荒郎の発言にダブルサウンドで反論する二人だったが、深雪も庇ったロベルトに対し、深雪はあっさりロベルトを切り捨てていた。まぁ、そう言うだろうと予想はついてたけどね。とは、ロベルトの悲しい心の声である。
「王輝って、私と同じくらいの身長よね？」
　それまで黙っていた冴来が、青い瞳を王輝に向ける。椅子に座っている状態だとは言え、視線はほぼ同じだった。王輝が微妙な顔をしながら頷き、征一郎が肩をすくめる。
「妹の服も入るんじゃねぇか？」
「それはないだろ。御陵の妹はかなり小さいから」
　深雪が自身の肩くらいの位置に手を伸ばす。
「まるで知ってるような口ぶりだな」
　こまちの指摘に「前にちょっと……」と言葉を濁す。
「もしかして、お赤飯？」
「ばっ……ちげーよ！」
「顔が赤くなってるんよ？」
　冥が顔を輝かせ、朧がケタケタをからかうように笑う。
「ちんまい御陵クンよりもさらにちんまいのか……」
　大荒郎がポツリと呟き、鞄の中から服を取り出す。
「いっぱいあるね！　サイズも豊富だし、色んな小物も揃ってるね」
　興味津々といった様子で、若菜が心持ち身を乗り出す。
「一緒にお写真撮りますカ？」
「あ、私は着ないんだけど……」
　チラリ。若菜の目が譲に向けられる。何かを期待するような眼差しに、譲は背中を滑り落ちる冷や汗を感じながらも、そっと目を逸らした。友人の二の舞にだけはなりたくない譲だった。